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2011年09月10日公開

崩壊国家ソマリアから考える国家本来の役割とは何か

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第543回)

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1962年秋田県生まれ。87年東京大学教養学部教養学科卒業。89年東京大学大学院総合文化研究科修士課程専攻修了。97年英国ヨーク大学南部アフリカ研究センター博士課程修了。南部アフリカ研究博士(PhD)。93年東京大学総合文化研究科国際社会科学専攻助手を経て2007年より現職。編共著に『日本の国際政治学3 地域から見た国際政治』、共著に『アフリカ国家を再考する』など。

司会

概要

 深刻な食料不足のために人口の半分にあたる400万人が飢餓状態に陥っているソマリアの飢饉は、国連食糧農業機関(FAO)が5日、緊急援助がなければ向こう4ヶ月で75万人が餓死する恐れがあると発表するなど、依然として深刻な状態が続いている。飢餓は新たに南部地域にまで拡大しており、毎日100人を越える子どもが命を落としているとFAOはいう。
 今回のソマリアの飢饉は少なくとも3つの複合的な要素に起因すると言われる。まずは、60年ぶりとも言われる大干ばつ。今年は雨期、東アフリカ地域には、ほとんどまったく雨が降らなかった。灌漑システムの完備されていないアフリカでは、農作の大半は雨水に依存している。雨が降らなければ作物は収穫できない。
 そして、国際的な食料価格の高騰。干ばつのために自力で食料が作れなければ、人々は食料を購入するしかないが、世界的に食料価格が高騰していることもあり、ソマリアでは店に食料が置いてあっても、ソマリアの人々の所得ではそれを買うことができない状態にあるという。食料価格高騰の原因については、ソマリアの干ばつに代表される世界各地での気候変動の影響やエタノール燃料需要の高まり、そして株安債券安で行き場を失ったマネーによる投機的な商品取引の横行などが指摘されているが、どうやら食料価格の高騰は一時的なものではなく、恒常的なものとの見方が強くなってきている。
 確かに干ばつと食料価格高騰の2点が重要な要素であることは間違いないだろう。しかし、干ばつが襲ったのはソマリアばかりではない。実際、東アフリカ全域が深刻な干ばつに襲われているし、他にも世界各地で大干ばつに襲われる地域は近年増えているが、だからといって直ちにソマリアのような危機的な状況を生んでいるわけではない。もちろん、食料価格の高騰もソマリアのみならず、世界各国に影響が及ぶ問題だ。
 南部アフリカ研究を専門とする遠藤貢東京大学大学院教授によると、今回のソマリア危機には3つめの要因があり、それがソマリア固有の問題として重要になると指摘する。それは、ソマリアが国家としての体を成していない「崩壊国家」状態にある点だ。国家機能が崩壊しているため、食料難民が出ても援助することができない。援助ができないばかりか、外国から援助を受けるための受け皿となることもできない。更に悪いことに、国家が国土を掌握できていないため、各地に部族や武装勢力が勃興し、国連を始めとする国際的な支援努力の邪魔をしたり、場合によっては危害を加えたりするため、支援物資を届けることもできない。ソマリアの首都モガディシュでは、海外からの援助物資が大量に盗まれ、横流しされていたことも、明らかになっている。
 実際、現時点でソマリアの暫定政府が実効支配できている地域はソマリアのほんの一部に過ぎない。南部の大半はアルシャバーブと呼ばれるイスラム武装勢力の支配下にある一方で、北部のソマリランドやプントランドは勝手に独立宣言を出し、自治政府を樹立してしまっている。国土はあってもそれを実効支配する政府が存在しない状態を遠藤氏は「崩壊国家」と呼ぶが、この状態では飢餓にも対応できないし、海賊が外国船を襲うことを押さえることもできない。
 ところで、現在のソマリアの崩壊国家状態は、一見安定している民主主義国家の日本とは無縁の話のように聞こえるかもしれないが、どうしてどうして、現在の日本の政治・社会状況を考える上で、実は興味深い鏡を提供してくれているかもしれない。
 確かに日本は政府が国土を実効支配できていて、ソマリアのような崩壊国家とは正反対の状態にあるかのように見える。しかし、ソマリアは制度としての政府は崩壊しているが、その中で人間が人と人との関係のみで生活を営み、社会を回している。政府とは無縁に社会が動いている状態と言ってもいいだろう。無論それは、大規模な飢饉などに対してはいたって脆弱となるが、そのような状態が続くことで恩恵を得ている人も大勢いるはずだ。
 翻って現在の日本は、あまりにも社会のシステムが確立しているため、むしろシステムが自立化して、政治が無力化された状態にある。人が自分の意思で何かをやろうとしても、システムがあまりにも硬直化しているために、人の意思で何かを変えることが著しく困難だ。つまり、崩壊国家の正反対にあるが故に、逆にシステムの想定を越えた問題に対応することが非常に難しくなっているとみることができる。それが過去20年にわたる経済政策の失政であったり、原発事故への対応の拙さに象徴されていると言えるのではないか。
 ソマリアの問題は人道的な観点から緊急の援助を行い迅速に対応することが肝要だ。しかし、日本はそれを単に「遠いアフリカの地に可哀想な人たちがいる問題」としてとどめておくべきではないのではないだろうか。
 今週のマル激では崩壊国家に詳しい遠藤氏と、中国出張中の宮台真司氏に代わって司会を務める哲学者の萱野稔人津田塾大准教授とともに、今世紀最大の飢饉に喘ぐソマリアの現状を検証した上で、国家の基本機能が崩壊しているソマリアが意味じくも浮き彫りにする「そもそも国会の機能とは何なのか」を議論し、それを現在の日本に投影してみた。

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