2010年11月06日公開

オバマの民主党は何に敗れたのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第499回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(期限はありません)

ゲスト

青山学院大学国際政治経済学部教授

1967年東京都生まれ。90年青山学院大学国際政治経済学部卒業。01年青山学院大学大学院国際政治経済学研究科博士課程修了。博士(国際政治学)。93年ワシントンポスト紙極東総局記者、98年日本国際問題研究所研究員、06年津田塾大学学芸学部国際関係学科准教授などを経て、10年より現職。共著に『アメリカ現代政治の構図』、『オバマ政治を採点する』など。

著書

概要

  中山俊宏先生の2022年5月のご逝去を受けて、過去の番組を追悼番組として無料で放送いたします。

 Yes, we can!を合言葉に、2年前、あれだけ人々を熱狂させたオバマ大統領率いる民主党が、2日に投開票が行われたアメリカの中間選挙で、大敗を喫した。4000万人とも言われる無保険者を救う医療保険制度改革や、金融の暴走を防ぐための金融規制改革などの大きな成果を上げたにもかかわらず、オバマの支持率は下落し続け、民主党は議会下院の過半数をも失ってしまった。なぜオバマの言葉はここまで輝きを失ってしまったのか。
 青山学院大学の中山俊宏教授は民主党大敗の最たる原因を、10%に届こうかという高い失業率の下で、オバマ政権が雇用状況を改善できなかったことにあると指摘する。雇用不安を抱える多くのアメリカ人にとっては、オバマ政権が取り組んだ国民皆保険制度や核なき世界などの大きな政策は、いずれも優先順位の高い問題とはならなかった。
 しかし、オバマの不人気には、更に深刻な背景があると中山氏は言う。それは、オバマが歴史的な使命感を持って推進した数々の政策が、結果的に多くのアメリカ人が持つ伝統的な価値感情を逆なでする結果となったことだ。アメリカの「原風景」とも言うべき「大草原の小さな家」的な保守思想は、自助精神が非常に旺盛で、政府、特に連邦政府が自分たちの生活に介入してくることを極端に嫌い、それに不安を感じる。その不安がティーパーティーなどの社会運動につながったと中山氏は見る。
 例えば、オバマが推進した医療保険制度改革法では、国民皆保険によって無保険者が救済される一方で、保険に入りたくない人や医療を受けたくない人の権利が侵害されると感じる人がいる。それは自分の生活圏に連邦政府が介入することであると同時に、保険に税金が投入され、「大きな政府」になるのではないかという保守派の不安を刺激するというのだ。税金を投入してGMや金融機関を救済する判断も、大量の財政出動による景気刺激策も、いずれも「大きな政府」の文脈で受け止められた。
 大統領選でオバマは「保守のアメリカもリベラルのアメリカもない。あるのはアメリカ合衆国、それだけだ」という大きなメッセージを掲げ、共和党の穏健派保守の取り込みに成功した。保守とリベラルの対立が深まるアメリカで、オバマ自身は自分が両者の「橋渡し」役を担えると自負していたかもしれない。しかし、いざ政権の座につくと、7870億ドルの大型景気刺激策やGMの国有化、医療保険制度改革など、「大きな政府」を彷彿とさせる法案を、上下両院を支配する民主党の数の論理で次々と通していった。そうした「大きな政府へ邁進」する政策に対する保守派の反感と不安が、オバマの予想を遙かに上回るほど大きかったというのが、中山氏の見立てだ。中山氏はまた、アメリカに染みついた「国が生活領域に入ってくることへの反感や不安」に対して、オバマは自身の言葉による説得の力を過信していたのかもしれないと指摘する。
 しかし、実際には他の誰が大統領になったとしても、雇用状況を改善できるかどうかは疑問だ。しかし、オバマが推進した政策が、保守派の不安を刺激するものだったために、本来は同床異夢の保守陣営が、反オバマの一点で結集することが可能となった。それが今回の共和党の大躍進、民主党の大敗につながったと中山氏は話す。
 人気絶頂からわずか2年でアメリカの凋落の象徴へと転落したオバマ政権の失敗とは何だったかを検証し、2年後の大統領選挙への課題を中山氏とともに考えた。また、この選挙結果がアメリカの国内外の政策、とりわけ対日政策に与える影響も議論した。

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