アベノミクスは浦島太郎の経済学だ
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
1952年生まれ。75年一橋大学経済学部卒業。同年三菱総合研究所入社。ロンドン駐在員事務所長、主席研究員などを経て02年退職。同年より現職。著書に『ユニクロ型デフレと国家破産』、『グローバル恐慌 金融暴走時代の果てに』など。
参院選が24日、公示され、各党ともマニフェストを通じて政策を訴えている。また、菅首相がマニフェスト発表会見で消費税率引き上げに言及したために、マニフェストとは別に消費税引き上げの是非が、選挙の主要な争点となっているようだ。
マニフェストは各政党が重要だと考える政策をまとめたものだが、それは日本や世界の現状をどう認識し、どのような対策を打つべきだと考えているかを示すものにほかならない。各党による今日の日本の診断書であり処方箋である。
各党のマニフェストは一様に、日本の現状について経済の停滞や長期デフレに言及した上で、その処方箋として、「強い経済」や「デフレ克服」、「目標経済成長率」などを提示している。
しかし、エコノミストの浜矩子同志社大学大学院ビジネス研究科教授は、各党のマニフェストが提案する政策はまちがいだらけだと指摘する。そもそも診断書の部分、つまり世界や日本の現状認識が誤っているからだと言うのだ。
浜氏は、現在、日本を覆うデフレは需要が供給を下回る通常のデフレとは異なる「ユニクロ型デフレ」とも呼ぶ現象だと言う。これは、グローバル化によって地球規模の安売り競争が起きた結果、モノの値段の低下が人件費を押し下げ、人件費の低下がモノの値段を押し下げるという悪循環を指す。ユニクロ型デフレの下では、経済が成長したとしても、貧富の格差が増し、貧しい人々の生活はますます貧しくなる。貧しくなった人々はますます安い商品に群がらざるを得なくなるため、更にユニクロ型デフレの悪循環の深みにはまっていくのだ。
浜氏は、こうした状況の下では、政党が経済成長を公約に掲げ、約束通りの経済成長が達成されたとしても、日本企業が中国などの新興国と安売り競争を続ける限り、人件費は下がり続けるし、格差は広がり続け、現在のユニクロ型デフレ状況は変わらないと言う。各党が今の日本経済の最大の問題と位置づけるデフレは、別の問題から生じている、という主張だ。そうならば、その根本問題に手当をしない限り、いつまでたってもデフレは解決しないことになる。
根本問題への取り組みが結果的に経済成長にもつながるだろうと浜氏は言う。そのためにはまず政治が、経済成長を吹聴するだけでなく、根本問題に対する処方箋を提示しなければならない。では、いたずらに経済成長を謳うのではなく、政治が経済や社会に対して本当にできることは何か。
浜氏はそこでカギとなるのが地域主権だと説く。まず政府が地域に権限を委譲した上で、地域に住む市民がお互いの顔が見える範囲で自分たちの問題に対する解を見つけそれを実行していく以外に、現在の日本社会が抱える問題を解決する方法は見あたらない。仮にセーフティネットの強化が必要という結論に達したとしても、それは国が一律に行うセーフティネットではなく、地域ごとのニーズを地域自らが考えて実行に移していくことが重要になる。政治にできることがあるとすれば、そうした枠組み作りくらいだろうと浜氏は言う。
政治が経済や社会を変えることはできない、反対に経済や社会が政治のあり方を決めるのだと主張する浜氏と、各党の参院選マニフェストの問題点、さらにはマニフェストには載っていない参院選の真の争点は何かを議論した。