生命について
青山学院大学理工学部教授
1959年東京都生まれ。82年京都大学農学部卒業。87年京都大学大学院農学研究科食品工学専攻博士課程修了。農学博士。88年ロックフェラー大学ポストドクトラル・フェロー、89年ハーバード大学ポストドクトラル・フェロー。91年京都大学食糧科学研究所講師、94年同助教授、01年京都大学大学院農学研究科助教授を経て、04年より現職。著書に『生物と無生物のあいだ』、『できそこないの男たち』など。
2009年最初のマル激は、「男はみんなできそこない」という、正月早々穏やかならざる話でスタートする。ゲストは『生物と無生物のあいだ』で昨年1月にマル激に登場してくれた分子生物学者の福岡伸一氏。
聖書ではアダムの肋骨の欠片からイブが作られたことになっているし、現代にいたっても、多くの国で男女の社会的な上下関係ではいつも男が上位にいる場合が多い。しかし、昨年『できそこないの男たち』を著した福岡氏は、生物学的にはどうみても女が人間の基本仕様であり、男は女を作り変えて(少しできを悪くして)できあがったものであることに、疑いの余地はないと言う。しかも、男は単に遺伝子を運ぶため、つまり女の使い走りをするために、便宜的に作られた動物だと言うのだ。
これは、生物全体に共通した事実だと福岡氏は言う。たとえばアリマキ(アブラムシ)は、普段はメスしか存在しないが、秋になり気温が下がってくると突如オスを産み、交尾をして、寒い冬を越えるために固い殻に守られた卵を産む。しかし、春が来てその卵から孵るのは、すべてメスだという。つまり明らかにオスは冬を越えるために交尾をする必要性から一時的に作られた「遺伝子の運び屋」でしかないということだ。
人間の場合もアリマキ同様、女が基本仕様となる。受精後、母胎の中で人間は皆、女としてその命をスタートさせる。しかし、受精後7週間目に、男になる運命の遺伝子を授かった胎児は、女になるはずだった体を無理やり男に作り替える作業が始まるという。
このときの無理な作り替えの痕跡が、男の体の方々に残っていると福岡氏は言う。また、平均寿命を見ても、がんの罹患率を見ても、男は女よりも弱い。
福岡氏は、男が社会を支配している理由は、社会は遺伝子を運ぶこと以外に存在意義のない男が自分探しの結果作り出した虚構だからではないかとの考えを示す。生物学的に、女性には「子どもを産む」という自明の存在意義がある一方で、男は女の使い走りであり、遺伝子の交換により多様性を生むことには貢献するが、自明の存在意義はない。その男が自らの存在意義を見いだすために作ったのがこの社会である以上、当然そこでは男が支配的な地位を握ろうとするというのが、福岡氏の分析だ。
性を決定するSRY遺伝子発見までのドラマや、生物学的に見た男系男子の皇統維持の持つ意味、科学の専門知識に踊らされないために必要な「科学リテラシー」についてなど、男がいかにできそこないであるかを入り口に、福岡氏と議論した。