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2008年12月13日公開

WTOと日本の農業政策を再考する

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第402回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業。同年農林省入省。82年ミシガン大学大学院応用経済学、行政学修士課程修了。応用経済学、行政学修士。05年東京大学大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻で農学博士取得。農水省ガット室長、地域振興課長、食糧庁総務課長などを歴任の後、08年3月農水省を退職。08年4月より現職。現在東京財団上席研究員等を兼任。09年1月に『農協の大罪』(宝島社新書)を刊行予定。

著書

概要

 スイスのレマン湖畔で、日本の農業や食料自給に大きな影響を与える重要な交渉が続いている。WTOのドーハ・ラウンドだ。ドーハ・ラウンドは、関税の大幅引き下げなどをめぐるぎりぎりの交渉がジュネーブのWTO本部で続いているが、早ければ13日にも開かれる見通しだった閣僚会合が、17日以降に延期され、現時点で見通しはたっていない。

 しかし、いずれにしても対立点は絞られてきており、7年に及んだドーハ・ラウンド交渉は、関税の大幅引き下げなど、日本の主張が一顧だにされない、日本にとっては非常に厳しい内容となることが避けられない状況だ。

 農水省でガット室長などの貿易交渉ポストを長年経験してきた山下一仁氏は、コメをはじめとする「重要品目」を関税引き下げの対象から外し、あくまで高い関税で国内市場を守ろうとする日本政府の交渉スタンスを批判する。「重要品目」は高い関税の維持を認めてもらう代わりに、最低輸入義務(ミニマム・アクセス)を受け入れなければならないが、それが結果として必要以上のコメの輸入を拡大させることになり、日本の食料自給率の更なる低下が避けられないとの理由からだ。

 ドーハ・ラウンドが妥結すれば、日本はコメの関税を778%に維持することへの代償として、現在毎年77万トンの最低輸入義務(ミニマム・アクセス)が課せられているコメの輸入を、さらに増やさなければならない。水田の4割を減反して生産量を抑えておきながら輸入量が増えるという、矛盾した結果となるが、多数の高関税品目を持つ日本が関税の引き下げを行えば、そうでなくでも苦境にある日本の農家が大打撃を受けるというのが、政府やJAの主張だ。

 しかし、山下氏は、折からの穀物価格高騰で国際市場でのコメの価格も上昇しており、日本は現在の関税を大幅に引き下げても、輸入米と十分競争していけると主張する。関税引き下げを免除してもらうことの引き替えにミニマムアクセスを受け入れるよりも、競争原理を受け入れた方が、結果的にコメの輸入量が増えないばかりか、将来的にはコメの輸出さえ可能になるというのが、山下氏の主張だ。

 自由貿易の推進を目的に95年に発足したWTOでの決定は、強制力を持つため、加盟国の産業や経済を大きく左右する。農産物や鉱工業品の関税削減などの貿易ルールの合意をめざすドーハ・ラウンドは、今年7月にインドと米国が対立したために決裂したが、9月の金融危機後、自国の産業を守る保護主義への回帰が懸念され、再度合意に向けての調整が行われることとなった。

 日本は工業製品の分野では、自由貿易の恩恵をもっとも受けてきた国の一つであり、WTOにおいても工業製品の分野では一貫して関税の撤廃を推進する立場をとっているが、農業については、コメ市場を守ろうとするあまり、頑なに高い関税を死守する政策に拘泥している。しかし、アメリカやEUが、農家への直接支払いによって国内農業を保護していく政策に転換する中、どうも関税で国内市場を保護する日本の政策は国際社会の中で正当性を失いつつあるようだ。

 もとより工業製品と同じように農業を扱うことはできないが、日本の農業政策は、ともすれば日本の農業を守るというよりも、日本の農協(JA)、そしてそれが代表する兼業農家を守る政策にすり替わっているきらいがある。そして、それを支えているのが、農協、農水省、自民党農水族の「農水鉄のトライアングル」だと、山下氏は説明する。

 現在の日本政府の農業政策は、本気で農業をやろうとする主業(専業)農家のためにも、消費者のためにもなっていないと、農水省の政策を批判し、省を辞職して間もない山下氏とともに、WTO農業交渉から見えてくる日本の農政の問題点を議論した。また、スーザン・ジョージ氏のインタビューなどを通じて、WTOが進めてきた自由貿易の問題点なども再考した。

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