「年収の壁」と「働き控え」を克服するためのベストな方法とは
大和総研主任研究員
1962年島根県生まれ。84年京都大学農学部卒業。京都大学農学研究科農林経済学博士後期課程中 退。農学博士。87年滋賀県立大学短期大学助手などを経て、06年より現職。専攻は開発経済学、農業経済学。著書に『日本の食と農』、共著に『農業経済論』など。
世界貿易機関(WTO)は17日、新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の年内「細目合意」を目指す作業を加速させることで一致した。ドーハ・ラウンドの主要な交渉分野は日本にも関係が深い農業だ。石破農水相は、農産品に例外的に高い関税をかけられる「重要品目」の十分な確保を求め、かつ低い関税で輸入量が大幅に増えることがないよう主張する方針を示している。
農産物の貿易自由化という世界的な潮流が進む中、農家の高齢化や後継者不足、米価の下落や、食料自給率の低下など、日本の農業の衰退を示す要素には事欠かない。日本の農業はこのままで大丈夫なのか。
農水省によると、05年現在、全国に285万戸の農家が存在するが、これは1960年の606万戸の半分にも満たない。農業問題について独自の視点から積極的に発言を行っている明治学院大学の神門善久教授は、この285万戸のうち「農家らしい農家」であるといえるのは、主業農家の中でも65歳未満の農業専従者がおり、農業所得が過半を超えているおよそ37万戸にすぎないという。120万戸は農地を所有しているが農業を営んでいない土地持ち非農家であり、残りは、高齢者が農業を続ける「高齢農家」や農業外所得を主とする「片手間農家」だと神門氏は指摘する。
神門氏は、日本の農業の衰退を招く要因の一つが、農地の「転用収入」だと言う。農業所得を主としない農家にとって農地は、低コストで保有でき、公共事業などで価値が上がったときに高額で売却することが可能な、錬金術の道具となっている。さらに、平地の優良な農地でも耕作放棄地が増えるなど、農地利用の無秩序化が日本の農業を衰退させた大きな原因だと神門氏は力説する。
神門氏はまた、少しでも安いものを買い求めようとする消費者の飽くなき欲求が、輸入食料への依存度を高める要因となっていると指摘し、消費者エゴの行きすぎを戒める。
日本の農業は今どうなっているのか。このまま自由化を進めても大丈夫なのか。食料自給率が低下しても本当に問題は無いのか。なぜ中国産の汚染食品が広がってしまうのか。独自の主張を展開する神門氏と、日本の農業と食について、徹底的に議論した。