「年収の壁」と「働き控え」を克服するためのベストな方法とは
大和総研主任研究員
1944年東京都生まれ。66年慶應義塾大学法学部卒業。同年日本経済新聞社に入社。76年衆議院初当選(新自由クラブ)。79年の落選を経て80年に再選し、自民党に入党。96年初入閣(科学技術庁長官)。内閣官房長官、党国会対策委員長、政務調査会長を歴任の後、06年党幹事長に就任。当選9回(広島4区)。著書には『上げ潮の時代』、『官僚国家の崩壊』など。
自民党内で、増税をめぐる意見対立が鮮明になってきた。少子高齢化によって今後膨れあがる社会保障費の財源を消費税率の引き上げで賄い、財政再建を優先すべきと主張する増税・財政再建派と、増税に反対し、構造改革によって経済成長を図り、税収を延ばすことを主張する上げ潮派に、党内の意見が大きく集約されつつあるようだ。
上げ潮派の中心が、安倍政権で幹事長を務め、小泉改革の正統的継承者を自認する中川秀直衆議院議員だ。中川氏は歳出の削減を徹底して行い、規制緩和などで経済成長率を高める「上げ潮政策」をとれば、「増税なしで財政再建は可能」と主張し、声高に増税反対を唱えている。また、5月末に上梓した新著『官僚国家の崩壊』では、有名なアイゼンハワー大統領の「軍産複合体」演説に準えた、エリート官僚を中心とする「ステルス複合体」が日本の改革を邪魔しているとして、更なる構造改革の推進を強烈に訴えている。
その中川氏は日本が東大法学部を中心とするエリート官僚たちに巧妙に支配されており、政治が官僚をコントロールできていないことが、日本の改革が進まない最大の要因であると主張し、改革に反対するエリート官僚たちを厳しく批判する。選挙の洗礼を受ける政治家は、政策の失敗に対して責任を追及されるが、官僚たちは、匿名のまま、政策を作成し、それが失敗に終わっても、結果責任をとることもない。政治家がいくら改革の旗を振ろうが、最大の既得権益者であるステルス複合体が改革を許すはずがない。彼らは官界を越えて、産業界、学界、マスコミまでを網羅した東大法学部人脈を通じて、相互に補完し合いながら、自分たちの力の保全を図っている。これが中川氏が日本の最大のガンになっていると断罪するステルス複合体の実態だ。
しかし、今国会で成立した公務員制度改革法は、山県有朋以来続いてきた、官僚支配の転換点になり得るとして、この法案の成立と道州制の導入によって、明治以来の官僚を中心とする中央集権体制からの脱却を図ることの重要性を強調する。また、そのためには政治が政策立案を官僚に依存している現状を変える必要があると語り、議員の政策スタッフの拡充や霞ヶ関に対抗しうる民間のシンクタンクの必要性を訴える。
「上げ潮政策」については、支出を削減し、規制を緩和し、新規参入を促す点では、新自由主義的な政策ではあるが、決して、市場原理主義政策ではないと、上げ潮批判に反論する。また、単に規制を緩和するのではなく、官から民へ権限を移譲する過程で、国民にパブリック(公共)の意識を育て、国民一人一人が主体的に社会と関われるようにするために、寄付税制を含めたNPO制度の拡充を図るべきだと主張する。
今週は、「上げ潮」と「ステルス複合体打破」の2つの政策を掲げ、ポスト福田総裁レースに殴り込みをかけたと永田町でもっぱら取り沙汰される中川氏をゲストに迎え、日本がいかに現状を打破すべきか、そして中川氏自身は10年後、20年後にどのような国家像を描いているかなどを聞いた。