メキシコ湾原油流出事故で見えてきた石油時代の終焉
丸紅経済研究所代表
1951年栃木県生まれ。76年東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。鉄鋼第一本部、調査部、業務部を経て、02年丸紅経済研究所主任研究員、03年同研究所副所長を経て、06年より現職。著書に『資源インフレ』、『食糧争奪』、『エネルギー争奪戦争』、『水戦争』など。
資源価格が異常な高騰を続けている。原油は11月20日に99ドル29セントと最高値を更新し、金、鉄鉱石、銅、プラチナ、レアメタルなど鉱物資源や、小麦、とうもろこし、大豆など穀物まで、資源価格が軒並み史上最高値を更新する勢いだ。今のところ企業努力とデフレ圧力のおかげで、資源高騰の物価への影響は限定的だが、資源の輸入依存度が高い日本では、今後さらに深刻な影響が出ることは避けられそうにない。
石油を中心に様々な資源市場の動向を30年以上ウォッチしてきた柴田明夫氏は、こうした一連の資源高騰は一過性の現象ではないとの見方を示し、楽観論に対して警鐘を鳴らす。確かに、巷間指摘されるような、資源市場へのファンドや投機マネーの流入という一面はある。また、核開発疑惑が取りざたされるイランに対する米国の軍事行動の可能性や、不安定なナイジェリアやベネズエラ情勢など産油国周辺の地政学的な不安定要因も価格高騰に一役買っていることはまちがいないだろう。しかし、昨今の資源価格高騰の本質的な要因は、中国やその他の新興工業諸国の急速な経済成長により資源需要が急増したため、需給関係が00年代に入ってから慢性的な供給不足の状態に陥ったことにあると柴田氏は言う。今後もその状況が緩和される可能性が低い以上、資源高が反転する可能性は期待できないというわけだ。
74年の石油ショック以降、先進国は強力に省エネを推し進めると同時に、中東以外の地域の油田開発にも務めた。また、80年代以降は先進国の経済成長も重工業を中心としたものではなかったため、その後20年あまり石油は供給過剰の状態が続き、原油価格も低迷していた。しかし、原油価格の低迷は、油田開発など新たな設備投資へのインセンティブをも低下させたため、世界の石油生産力も低下し続けた。ところが00年代に入って、中国や他の新興工業国の急激な経済発展が始まり、それに伴う資源需要の急増という事態に、資源は慢性的な供給不足の状態に陥っていると柴田氏は指摘する。
同様の構造は、石油以外にも鉄鉱石、レアメタル、穀物などにも共通している。中国や他のBRICs諸国など新興工業諸国の経済発展が続く限り、資源の慢性的な供給不足は続くと見られることから、柴田氏は、既に世界は各国が限られた資源を奪い合う「資源争奪戦争」の時代に突入していると言う。
このような状況に瀕して、既に米国やEC、そして中国は着々と手を打ってきている。しかし、資源貧国の日本は、政府も国民も、金さえ出せば欲しいだけ資源が手に入る幸せな時代が終わりつつあることを、まだ十分に理解できていないのではないかと、柴田氏は懸念を表す。
最近の資源高騰の背景と日本の選択肢を柴田氏と考えた。