NATOの「自分探し」とロシアのウクライナ軍事侵攻の関係
東京外国語大学大学院教授
1957年東京都生まれ。86年早稲田大学大学院理工学研究科都市計画専攻修了。88年NGO「プラン・インターナショナル」に参加し、シエラレオネ、ケニア、エチオピアの事務所長を歴任。99年国連主催DDR特別運営委員会日本政府代表、00年東チモール暫定統治機構県知事、01年国連シエラレオネ派遣団武装解除統括部長などを経て、03年~04年日本政府特別顧問としてアフガニスタンの武装解除を指揮。02年立教大学21世紀社会デザイン研究科教授、06年より現職。著書に『東チモール県知事日記』、『武装解除―紛争屋が見た世界』など。
テロ特措法の延長期限を今月末に控え、日本のアフガニスタン対テロ戦争支援をめぐる議論が大詰めを迎えている。来週には与党の海上給油に絞った新法の議論が始まる見込みだが、議論は国会承認の有無や石油のイラク戦争への転用の有無ばかりに集中し、どんどん矮小化されているようにさえ見える。
また、参院で第一党となった民主党も、いったんは小沢代表が政権をとった場合はISAF(国際治安支援部隊)に参加したい意向を明らかにして物議を醸したが、その後、あれは民生分野を念頭に置いたものだったと、明らかなトーンダウンをするなど、混乱を続けている。
どうやらここまでの議論は米国への忠誠を示し続けたい自民と、比重を徐々に国連に移していきたい小沢民主党の二者択一の枠内で進んでいるようにも見える。
しかし、これまで幾多の紛争地で国連の治安回復や武装解除に取り組んできた伊勢崎賢治氏は、アフガニスタンの現状を踏まえると、どちらの選択肢も的外れであると一蹴する。理由は、いずれを選択しても、アフガニスタンの安定と戦争終結には結びつかないことが明らかだからだ。
アフガニスタンの武装解除の実質的な責任者だった伊勢崎氏は、現在のアフガニスタンの最大の問題は、治安の悪化にあると指摘する。アメリカとその有志連合が展開するテロ掃討作戦のOEF(不朽の自由作戦)も、国連決議に基づいて各国が展開するISAF(国際治安支援部隊)やPRT(地方復興チーム)も、タリバン政権崩壊後に行われたSSR(治安分野改革)が崩壊したために、機能不全に陥っているというのだ。
SSRの目的は、アフガニスタンに警察を作り、国軍を編成させ、司法を機能させ、アフガニスタン人自身に治安を維持させることだった。日本も、SSRの一端を担い、伊勢崎氏を顧問に迎えた外務省のチームが、軍閥の武装解除を行い成功している。しかし、ブッシュ政権の政治的な都合で、警察組織を拙速に立ち上げようとした結果、軍閥がそのまま警察に組み入れられ、警察の皮をかぶったマフィアが跋扈する事態を招いてしまった。この警察のマフィア化問題を解決しなければ、いかなる軍事援助もいたずらに犠牲者を増やすばかりで効果はあがらないというのが伊勢崎氏の主張だ。
伊勢崎氏はまた、日本にはその分野、つまり非軍事の分野でも、貢献できることが少なくないとも言う。現在アフガニスタンはOEFによる二次被害(一般市民への被害)が広がる中、米軍をはじめとするOEF参加国に対する市民の怨念が蓄積している。しかし、アフガニスタンから遠くの彼方にあるインド洋での無料ガソリンスタンドしかやっていないため、アフガニスタン国内では日本は加害者ではないという「美しい誤解」があると伊勢崎氏は言う。警察の強化や軍閥との交渉など、アフガンでも手を汚していない(と誤解されている)日本だからこそ、貢献できる非軍事部門の活動は多いと伊勢崎氏は指摘する。
SSR分野で貢献することは、日米同盟の観点からも意味が大きいと伊勢崎氏は主張する。それは今アメリカが一番困っているのがSSRの崩壊問題に他ならず、その分野で日本が貢献することの方が、無料ガソリンスタンドよりはるかにアメリカのみならず、国際社会からも高く評価される活動だとの理由からだ。
そろそろ日本も自立的に自国の行うべき支援を考える時に来ているのではないかと主張する伊勢崎氏とともに、本質を踏まえない無料ガソリンスタンド論争を排し、真に日本ができる貢献とは何があるかを考えた。