[5金スペシャル ジャーナリスト・ラウンドテーブル]解散回避に見る日本の政治とメディアの現状
政治ジャーナリスト
ジャーナリスト
1968年福岡県生まれ。92年都留文科大学文学部卒業。富士屋ホテル、NHKなどを経て、94年、衆議院議員鳩山邦夫の公設秘書となる。99年よりニューヨークタイムズ東京支局の記者を勤め、02年よりフリーに。『ニュースの深層』(朝日ニュースター)で司会を担当。著書は『小泉の勝利、メディアの敗北』、『官邸崩壊』など。
参院選の惨敗で安倍政権への風当たりが強まっているが、当の首相はというと、この騒ぎをどこか他人事のように聞き流しているかのような話し振りで、退陣の意思は微塵も見せていない。
近著「官邸崩壊」の中で、安倍政権内部の「惨状」を克明に描いたジャーナリストの上杉隆氏は、政権発足直後の昨年秋の段階で、安倍内閣の中枢が事実上崩壊していることを察知し、政権内部の取材を重ねてきたという。そしてその結果、安倍政権では、過去の自民党政権が長年かけて蓄積してきた政権運営のノウハウが、ほとんど何ひとつ踏襲されないまま、功名心に走る首相の側近たちがもっぱら見当違いの行動をとり続ける「烏合の衆」と化していることが、明らかになったという。
例えば、先週来ニュースを賑わせている、小池百合子防衛大臣と守屋武昌防衛次官の人事をめぐる対立にしても、実際は小池氏と塩崎恭久官房長官の間の感情的な確執が形を変えて表面化したものに過ぎず、本来調整役を務めるべき官房長官や官房副長官らが従来通りの根回しを行っていれば、何ら問題のない人事だったと、上杉氏は指摘する。
調整役を嫌がる出たがり官房長官、官僚からそっぽを向かれた官房副長官、仕事をしない無能補佐官、黒子に徹することができない首相秘書官等々、聞けば聞くほど驚くような惨状が浮かび上がる中で、上杉氏は、安倍政権の数々の問題点の最終的な原因は「安倍総理自身の資質」にすべて帰結すると結論する。そもそも総理自身が、こうした問題を問題とも思っていないか、もしくは問題に気づく能力に欠けているというのだ。
とは言え、問題が総理の資質だけなのであれば、政権が変われば片がつく。しかし、より重大な問題は、安倍首相の「居座り」によって、90年代半ばの橋本政権以降進められてきた官邸機能の強化と、小選挙区制と政党助成金の導入によって派閥の影響力が低下したことで、内閣総理大臣への権力の集中が思いのほか進んでいることが、明らかになったことだ。
強化された官邸機能をフルに活用したと言われる小泉政権は強いリーダーシップを演出したが、それは絶大な国民的人気を誇る首相個人のキャラクターに拠るところが大きいと理解されてきた。しかし、安倍政権の下では、支持率が下がっていても、国民投票法案を含む重大な法案が総理の独断で次々と強行採決され、長老や党人派の幹部たちまでが、それを諌めることもなく、その方針に粛々と従った。また、国政選挙で歴史的大敗を喫しても、誰も首相を引き摺り下ろすことができない。ここまで総理への権力の集中が進んでいることを、今、私たちはまざまざと見せつけられている。
そしてそれは、総理が単に無能なだけでなく、何か重大な問題を抱える人物が官邸の主となったときに、今の日本ではその暴走を誰も止められなくなる危険性を示唆しているとはいえないだろうか。
政権内部の取材を続けてきた上杉氏に、権力についての多くの著作を発表している萱野稔人氏を交え、安倍首相の官邸居座りに見る「官邸機能強化」の功罪と、権力の集中が進むグローバル化の時代において、われわれはその権力をどう監視し、どうコントロールすべきかについて議論した。