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2007年06月01日公開

プロ野球の凋落にみる日本問題の深層

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第322回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1947年佐賀県生まれ。70年西南学院大学商学部卒。同年、伊藤忠商事入社。米国デンバー支社勤務、情報通信総合企画室、文化事業開発室などを経て、98年、同社を退社。99年(株)ニッポンスポーツマネジメントを設立し、代表取締役に就任。04年、帝京大学経済学部非常勤講師を経て、05年教授に就任。同大学では経営学科でスポーツビジネス論を担当。著書に『メジャー野球の経営学』、『スポーツと国力』など。

著書

概要

 昨年11月、米メジャーリーグのボストン・レッドソックスは、西武ライオンズの松坂大輔投手の獲得のために、総額で120億円をつぎ込んだ。日本で選手獲得にこれだけの資金を使えば、確実に経営が成り立たなくなる。日本のプロ野球の各球団は、発足から73年たった現在にいたっても、親会社からの赤字補填なしには、経営が成り立たないところが多いのが実情なのだ。
 その松坂は既にメジャーリーグで7勝をあげ、レッドソックスのアメリカンリーグ東地区首位独走の原動力となっている。来年以降、日本野球のトッププレーヤーが次々とメジャーに引き抜かれていることになることは必至だろう。もはや日本のプロ野球には、松坂レベルの才能を引き止めるだけの力が存在しないのだ。
 しかし、アメリカのスポーツビジネスに詳しい大坪正則氏は、松坂獲得のための投資は「決して、高くはない」という。なぜならば、レッドソックスは松坂獲得でテレビの放映権を含む膨大な収益をあげることができる構造がメジャーリーグには出来上がっているからだ。
 アメリカンフットボールやバスケットボール、アイスホッケーなど多種多様なアメリカのプロスポーツの日本国内でのマーケティングを手がけてきた大坪氏は、アメリカのプロスポーツが商業的に成功している理由として、フランチャイズによる独占とコミッショナーによる営業力強化で、常に売り手市場で交渉を進められる立場を貫く戦略をとっている点を強調する。
 プロスポーツのクラブ(球団)にとって収入源は、チケット販売と、球場での物販、試合の放映権や商業化権、広告料の5種類あるが、アメリカではその5つのうち、チケット販売収入と球場での物販収入はそれぞれ地域でフランチャイズ(地域独占権)を持つ球団が握るが、試合の放映権や商業化権、広告料については、コミッショナーが一括して交渉権を持ち、その利益はコミッショナー経由で全球団に分配されるようになっている。そうすることで、収入源の5つすべてにおいて、売り手側が独占的に交渉できる立場に立つことが可能となり、より有利な条件が引き出せるというのだ。
 そして、200億円を超える1チームの収入の内、60%が選手の報酬に使われている。結果的にメジャーリーグの選手の平均年俸は日本のプロ野球の8倍にも上り、松坂のような素質のある選手が次々と日本を去っていくことにつながってしまうと大坪氏は言う。
 一方、日本のプロ野球は、各球団が5つの収入源をすべて球団ごとに保有している。各球団がバラバラに営業をしている上、球団間で利害が競合するため、常に買い手市場となり、買い叩かれてしまう。例えば、野球帽を売りたいと考えた百貨店は、ある球団との取り引き条件が悪ければ、別の球団と交渉することが可能だ。メジャーでは、これはコミッショナー権限となるので、全球団の帽子を置かなければならないなどの条件をつけることも可能になる。
 そして、日本のプロ野球がいまだにそのような原始的なマーケティングのシステムしか構築できていない最大の理由は、読売巨人軍の存在にあると、大坪氏は分析する。巨人だけは個別のマーケティングでも儲かる構造を持っているため、営業権を手放そうとしないというのだ。
 そもそも、日本プロ野球は発足の時点から、読売新聞のオーナー・正力松太郎氏が、朝日新聞や毎日新聞が高校野球の権利を握っていたのに対して、新聞の販売促進のためにプロ野球リーグを設立したという経緯がある。日本のプロ野球はいち新聞社の新聞を売るためのツールとしてスタートしたものだったわけだ。当然の帰結として、日本のプロ野球はファンではなく、親会社の顔色を常にうかがう経営に終始することになる。
 メディアと野球をミックスさせる「正力モデル」も、当初はうまく機能した。高度経済成長期においては、“巨人”こそが“プロ野球”という存在であり、日本人の大半を占めるとさえ言われた巨人ファンが、プロ野球の人気を支えてきた。それとともに、読売新聞や日本テレビは大きく業績を伸ばすことに成功した。
 しかし、かつては20%を越えていた巨人戦の視聴率は、いまや1桁台に落ち込み、プロ野球の人気の凋落に歯止めがかからなくなってきている。その理由として、大坪氏は、日本のプロ野球の過った「自由競争」の考え方が野球を面白くなくしていると指摘する。
 日本では巨人が強くなりすぎたことへの批判が高まり、戦力を均衡させるための施策として1965年からドラフト制度が導入されてきた。しかし、93年の長嶋監督復帰を機に、やはり強い巨人がいなければ野球人気は維持できないとの機運が高まり、ドラフト制度が骨抜きになっていく。昨今の裏金問題の温床となった「逆指名制度」も、その一例だ。大坪氏は、こうした施策は、サッカーのJリーグ発足に焦りを感じたプロ野球が、困った時の長嶋頼み、巨人頼みに走った結果と指摘する。
 翻ってアメリカのプロスポーツでは、チーム間の健全な競争を維持するために「戦力の均衡」に心血が注がれている。一定の競争環境を維持するために、自由競争とは逆の社会主義的な施策が取られているのだ。「プロスポーツの商品は試合」と言い切る大坪氏は、勝つことが目的ではなく、ファンが喜ぶおもしろい試合を常に提供できるかどうかが、そのスポーツが収益をあげられるかどうかの分かれ目になると説く。
 今回は、日米のプロ野球の収益構造や運営の仕組みを通して、既得権益と顧客重視という観点から現在の日本経済が抱える根深い問題を考えた。

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