[シリーズ・民主党政権の課題1]高速道路無料化のすべての疑問に答えます
シンクタンク山崎養世事務所代表・一般社団法人「太陽経済の会」代表理事
1958年福岡県出身。東京大学経済学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でMBA取得後、大和證券に入社。94年米・ゴールドマン・サックス本社に移り、98年日本法人ゴールドマン・サックス投信(現ゴールドマン・サックス・アセット・マネージメント)社長、米・ゴールドマン・サックス本社パートナー(共同経営者)に就任。02年、同社を退社し徳島県知事選に出馬するも落選。同年、山崎養世事務所を設立。著書に『米中経済同盟を知らない日本人』、『チャイナ・クラッシュ』など。
5月1日、三角合併による企業買収が解禁された。自社株との交換による買収が可能になったことで、時価総額で日本企業を大きく上回る多国籍企業による日本企業の買収に拍車がかかる可能性が取りざたされ、一部では日本企業に触手を伸ばす外資を「黒船」呼ばわりする風潮も散見される。
しかし、元ゴールドマン・サックスの山崎養世氏は、それは明らかに現実を反映していないと、昨今の「外資脅威論」を一蹴する。
そもそも「黒船」や「企業防衛」といった考え方は、規制に守られながら非効率な経営を続けることで株主利益を蔑ろにし続けてきた日本企業の経営者の立場のみを反映したものであり、株主や日本経済全体の利害を反映していない。M&Aにより企業価値が高まれば、株主は利益を得るし、労働者も一時的にはリストラなどの憂き目に遭うかもしれないが、最終的には経済全体としてはより多くの雇用が維持されることになる。にもかかわらず、経営者の立場のみを反映する情報を垂れ流しする日本のメディアもまた、規制による保護と非効率の象徴的な産業であると、山崎氏は喝破する。
もともと「三角合併」が解禁されれば直ちに外資による買収が横行するという見方自体に問題がある。日本企業は総じて時価総額が低いため一見お買い得のように見えるが、実際は株価収益率(PER)などの指標で見ると魅力の低い企業が多い。また、三角合併を仕掛ける企業は、現金の調達も容易にできるはずなので、わざわざ手間のかかる株式交換などを行う必要は無い。
「買収が脅威なのではなく、買収さえしてもらえないダメな企業が多い」のが日本の現実なのであって、買収対象になるということはむしろ「国際的に評価された」ことを意味すると、山崎氏は言う。
実際、90年代後半から日本企業のM&Aは急増しているが、その内実は外資に日本の企業が買収されるよりも、日本企業が海外で買収を行うケースが数では大きく上回っている。「外資黒船論」がいかに恣意的な表現であるかは、これでも明らかだ。
一方、山崎氏は製造業を中心に日本の企業はかなり競争力をつけてきていると語るが、ことメディアと金融については、いまだに世界基準の競争力がまったくついていないと苦言を呈する。この2つは人間に喩えれば血液やリンパ液を循環させる役割を担っている。日本ではその2つの生命線が機能していないため、いまだに東京への一極集中や効率的な経営が生き延びてしまっているという山崎氏は主張する。
山崎氏はまた、M&Aなどの市場原理を導入して合理化を進めることはいいことだが、教育や医療など、必ずしも市場原理だけでは解決できない分野があることも、認識しておく必要があると言う。
元祖「高速道路無料化論者」として知られる山崎氏とともに、三角合併で改めて浮き彫りになった後ろ向きな日本企業の経営体質と金融、メディアとの癒着した関係を再考し、日本が21世紀型の経済に脱皮するために何が必要になるかを考えた。