「年収の壁」と「働き控え」を克服するためのベストな方法とは
大和総研主任研究員
今春私立中学を受験する子供の数は過去最高の5万人を超え、「公立離れ」が加速していることが明らかになった。しかし、東京都では初の民間出身の公立中学校長として、数々の画期的な施策を打ち出す和田中学校の藤原和博氏は、地域社会の「ハブ」になることが可能な公立中学校にこそ大きな可能性があると主張する。
実際藤原氏は2003年の校長就任以来、地域社会を巻き込みながら、公立中学としては例を見ないユニークな施策を次々と打ち出してきた。
その一つ、「よのなか科」の授業では、地域や社会の一線で活躍する人々を大勢教室に招き、ハンバーガー店の経営シミュレーションをロールプレイすることで実際のビジネスを体験させたり、実際にホームレスを招き子供と大人が一緒になってホームレスと社会の関わり方のあるべき形についてのディベートを行ったりしている。
他にも、毎週土曜日に希望者が大学生達と一緒に勉強する「土曜日寺子屋」(通称:どてら)や、地域の大人に図書室や校庭などの学校施設の管理を委託する「地域本部」の設置など、従来の公立中学のカリキュラム編成を越えた地域ぐるみの新たな試みが、藤原氏の就任以来和田中学校で実施されている。
こうした試みは子供達の基礎学力の向上に加え、コミュニケーション能力や論理構成能力といった「生きる力」を養成すると、藤原氏はその意義を強調する。成熟した近代社会では、問題に対して常に一つの正解があるとは限らないため、これまで強調されてきた正解をすばやく導くための「情報処理能力」だけではこれからの世の中では通用しない。より多くの人が納得できるような「納得解」を捻出するための「情報編集力」が、これからは求められる。そうした能力の養成を意図したプログラムを実践していると藤原氏は言う。
しかし、藤原氏の真意は教育分野にはとどまらない。和田中学校の試みは、公立中学が地域の大人を巻き込むことで、子供の教育効果と同時に、地域の大人達の参加を促し、子供と地域社会の大人の間の「ななめの関係」を生み出す。そこに失われた地域内の新たなコミュニケーションが生まれ、それが地域社会を再生させる重要な鍵になると藤原氏は説く。公立学校がそのような形で地域の「ハブ」となることで、21世紀の日本に求められる地域社会の再生を図ろうというのが、藤原氏の描くグランドビジョンだ。
リクルートのエリートサラリーマンから校長に転じた藤原氏の和田中学での試みとは一体どのようなものなのか。これは全国に広がる可能性のあるものなのか。それが全国に広がれば、地域社会にどのような変化が出てくるのか。和田中校長の任期を一年余りを残した藤原氏と共に考えた。