特定秘密保護法案・西山太吉がわれわれに残した宿題と政治家の問題意識を問う
党PT座長
弁護士
先週の一般教書演説でブッシュ大統領はイラク駐留米軍の増派への理解を求めたが、議場では民主党のみならず共和党の議員からもほとんど拍手はなかった。9・11直後は90%を誇った支持率も3割を割るまでに落ち込み、もはやブッシュ政権は完全に死に体状態にある。
ニューヨーク市立大学の霍見教授は、ブッシュ政権がハリケーン・カトリーナに有効に対応できなかったことを契機として、政権を支えてきた富裕層、キリスト教原理主義者、石油利権屋の3つの柱が、ようやくブッシュ政権の実態に気づき始め、それが先の中間選挙の民主党圧勝につながったと言う。
もともとフロリダの「疑惑の再集計」で辛うじて大統領になったブッシュだったが、政権発足の年に起きた同時テロ以降はメディアも政権批判を控えたことから、ブッシュ政権の実態が浮き彫りにならないまま、アメリカはイラクの泥沼に足を踏み入れるところまで突っ走ってしまったのだという。しかし、カトリーナの惨状を目の当たりにしても、救援に送るべき州兵も堤防を築くべき陸軍工兵隊も、いずれもイラクに派遣されていて不在だったことで、ようやくアメリカ国民がイラク戦争の本当の意味に気づくようになったと言うのが実態だったと霍見氏は言う。
アメリカでは早くも2008年の大統領選挙で民主党の政権奪還の可能性が取り沙汰され始めている。先のファーストレディ、ヒラリー・クリントン上院議員の出馬表明で、いよいよアメリカ史上初の女性大統領の可能性すら囁かれ始めているという。
しかし、それにしてもなぜアメリカはここまでブッシュ政権の失政に気づかなかったのだろうか。なぜメディアはここまでブッシュ政治を支持したのか。そして、いかにアメリカはそこから抜け出すことができたのか。霍見氏に聞いた。
霍見氏はまた、対イラク政策で世界各国がその死に体ブッシュ政権を見放す中、依然として忠犬ポチよろしく忠誠を尽くしているのが安倍政権だと言う。
首相就任後まず、ワシントンではなく中国と韓国を訪問するなど、一見アメリカと距離を置いているかにも見える安倍政権だが、実際はブッシュ政権の手のひらの上で踊っているだけだと霍見氏は指摘する。
「中韓訪問はむしろ日中関係の悪化によって日本の対中カードとしての価値が無くなってしまう可能性を懸念していたブッシュの意を受けたもの」(霍見氏)だし、6ヵ国協議も、二国間交渉に否定的なブッシュ政権の意向に沿った「カブキ芝居」(霍見氏)につきあっているだけ。安倍政権のウリである対北朝鮮強硬路線も、その実はアメリカの意向に沿った行動を取っているに過ぎないというのだ。北朝鮮への軍事制裁も辞さない立場を取るブッシュ政権にしてみれば、北朝鮮暴発の危機を本気で回避する気など毛頭ない。アメリカの頭越しに平壌宣言を出すなど、独自外交の姿勢を見せた小泉政権を恫喝して、日朝国交正常化への道を阻んだのもブッシュだった。それが霍見氏の見立てだ。
後半はそうした状況の中で、弁護士の海渡雄一氏をゲストに迎え、ゲートキーパー法なる天下の悪法の成立を狙う安倍政権の真意を考えた。
ゲートキーパー法はマネーロンダリング(犯罪収益の移転)の疑いがある時に、それを警察に報告する義務を金融機関や税理士など50の職種に課すもので、安倍政権は今国会での成立を目指している。しかし、50の職種の中に弁護士が含まれているため、日弁連を中心に反対運動が広がっている。弁護士が依頼者の違法行為を警察に報告する義務を課されてしまっては、守秘義務も何もあったものではない。しかも弁護士は疑いがあるだけで報告が義務づけられ、報告を怠れば弁護士資格を失う可能性もある上、警察に報告した事実を依頼者に漏らしてもいけないという条件までつく。
この法案が報告を義務づけているのは、マネーロンダリングの疑いがある場合に限定されているかのような表記があるが、実際には対象は犯罪収益全般に及ぶ。つまり、違法な事業を行っているテナント(例えば著作権違反など)に部屋を貸しているアパートの大家や、極論すれば暴力団から出前の注文を受けた寿司屋まで、この法案では報告義務の対象となる。そして警察は報告があれば、その口座を凍結できるのだという。つまり大家や寿司屋の銀行口座をである。
弁護士の海渡氏は、「この法案が通れば、市民は弁護士に何でも相談ができなくなってしまう。また一方で、この法案が密告を義務づけているために、密告社会化を生めてしまう天下の悪法だ」と斬って捨てる。実際、この法律ができれば、市民社会はもはや弁護士を全面的に味方と考えることができなくなる一方で、法案の提出者である警察庁は、全ての業界を自らの監督下に置くことが可能となる。弁護士が警察の監督下に置かれることになる法律。それがゲートキーパー法の実態だと海渡氏は怒りを露わにする。
海外ではイギリスを除いて、同様の法案が一度は可決したものの、差し戻されたり、違憲訴訟に敗れて廃止になったりしているというが、遅ればせながら日本は今になってそんな法律を通そうとしているのだ。
「警察が本気で通したがっている法律に、面と向かって反論することで生じるリスクを負いたい政治家がいない」ことが、このような悪法が国会を通過してしまう最大の理由との海渡氏は言うが、実際にこの法律は政治家自身にも累を及ぼす危険性のある極めて危険な法律にも見える。
今国会では悪名高き共謀罪も依然としてまだ継続審議となっているが、これは日本がすでに警察の恐怖政治がまかり通る時代に突入しているということなのか。もしそうでないのなら、与党はなぜこのような法律を作ろうとするのか。もともとこの法案はOECDのマネーロンダリング防止のための勧告に基づいたものだが、このような監視社会化を推進する世界の趨勢は一体どこからくるものなのか。海渡氏とともに考えた。