「年収の壁」と「働き控え」を克服するためのベストな方法とは
大和総研主任研究員
小泉政治の5年間を検証する「小泉政治の総決算」シリーズ第3弾は、長年にわたり日本の労働者の現状をつぶさに取材してきたルポライターの鎌田慧氏をゲストに迎え、小泉改革の負の遺産と言われる格差社会の現状について、鎌田氏の豊富な現場情報をもとに議論を進めた。
鉄鋼全盛の時代から労働問題を取材してきた鎌田氏は、今日の労働者の権利は1950年代並に悪化していると指摘し、その背景に労働者派遣法や労働基準法などの大幅な法改正があると言う。厚生労働省の統計によると、パートやアルバイト、派遣などの社員ではない不安定な形で雇われている人の数は04年に1500万人を超え、今や全雇用者の3分の1を占める。
かつて戦後日本の炭鉱や土木現場で行われていた、期間工や日雇い労働者を集めてきて賃金をピンはねする行為は違法行為とされ、それがヤクザ発祥の源になったとまで言われる。しかし、86年に労働者派遣法が制定されて以来、労働者を派遣して上前をはねる行為が正当なビジネスとして急速に拡大した。一見、雇用者にも被雇用者にもメリットがあるかのように喧伝されている労働者派遣ビジネスだが、その実は最少のリスクで都合良く使い捨ての労働力を得たいと考える企業のためにあり、多くの労働者が厳しい雇用条件のもとで経済的に不安定な生活を強いられていると、鎌田氏は警鐘を鳴らす。
鎌田氏はまた、企業がグローバル市場での熾烈な競争に晒される中、かつては企業が担っていた日本における相互扶助のシステムが崩壊しており、低賃金で不安定な仕事を転々とする中で将来の見通しがたたない労働者が、行き場を失っていると言う。特にそれが若い世代で増えていることも、問題をより深刻にしている。
そして、彼らの閉塞感や絶望感に巧みに訴えることで、本来は彼らを追いつめる政策を実行しておきながら、彼らからまんまと票や支持を取り付けることに成功していたのが小泉政権の本質だというのが、鎌田氏の見立てだ。
それにしても日本はいつから働きたい人が働けない国になってしまったのか。格差社会の長期的な影響はどこに現れるのか。小泉政権の交代で、状況が改善される可能性はあるのか。鎌田氏と共に考えた。