ようやく見えてきたコロナ禍と自殺の関係
NPO法人ライフリンク代表
1972年東京都生まれ。96年国際基督教大学教養学部卒業。97年NHK入局。『クローズアップ現代』などを経て04年退職。同年NPO法人ライフリンクを立ち上げ代表に就任。09年11月から10年6月まで内閣府参与を務める。共著に『「自殺社会」から「生き心地の良い社会へ」』、『闇の中に光を見出す—貧困・自殺の現場から』。
年間自殺者が8年連続で3万人を越えた。現実にはその10倍とも言われる自殺未遂者がいるため、毎日1000人からの日本人が自殺に追い込まれていることになる。交通事故の年間の死者数が6000人台であることを考えると、これはとんでもない数字だ。
しかし、「自殺」の持つ否定的なイメージや、「自殺はあくまで個人の選択」という過った認識が災いして、自殺に関する国民的な議論がなかなかわき起こらず、メ ディアもこの問題を必ずしも積極的に取り上げてこなかった。結果として、行政も手をこまねいたまま、ほとんど対策らしい対策は行われていない。年間30万人からの人間が自らの命を絶つところまで追い込まれている現実があるにもかかわらず、その実態調査すら行われたことがないのが実情だ。
あまり脚光は浴びていないが、今週閉会した今国会で、ようやく自殺対策基本法が超党派の支持で議員立法により成立した。これにより、ようやく日本も自殺対策がスタートラインに立つことができる。
この法案の成立に議員とともに取り組んできたNPO『ライフリンク』の清水氏は、法案の成立そのものは手放しで喜ぶ一方で、自殺問題を単なる法律や行政措置によって解決できるものと安直に考えることに対しては慎重だ。実態調査が進むにつれ、金融機関の個人保証、連帯保証人制度や、生命保険の自殺免責条項が行使されていないことの影響などは明らかになってくるだろう。しかし、そうした制度的な問題と同時に、自殺の存在自体が今日の日本のあり方の鏡になっている面があるのではないかと清水氏は言う。仮に自殺にまで至らなかったとしても、何かとても「生きにくい」要素が、今の日本社会にあるのではないかと言うのだ。
そのほんの一例として、家族が自殺すると、遺族は就職や結婚に影響するという懸念から、その事実を直向きに隠さなければならない風潮が今でも厳然と残っている。家族が自殺を選んだ原因をあれこれ考える以前に、残された遺族は家族の死を悼み喪に服することすら許されない状況に置かれているのが実情なのだ。
また、自殺者の多くが、自分の悩みや抱えている問題を人に打ち明けることができていないという。日本では、特に男性の間に、自分の弱さを露わにすることを恥と考える社会的風潮が、そうした背景にあるとの指摘もある。自殺問題を自分たち自身の問題として考えていかなければならない所以だ。
いずれにしても自殺問題は、これから日本が最優先で真剣に向き合っていかなければならない社会問題であることはまちがいない。清水氏とともに、自殺問題の現状と課題、今国会で成立した日本初の自殺関連立法の意義などについて考えた。