鳩山政権は何に躓いたのか-新政権の課題
北海道大学教授
東京新聞・中日新聞論説委員
1958年岡山県生まれ。81年東京大学法学部卒業。同年同大学助手。北海道大学法学部助教 授を経て93年より現職。著書に『民主党政権は何をなすべきか』、『政権交代論』など。
「民にできることは民で」。そんな合言葉を掲げ、財政再建果たすべく小泉政権は「小さな政府」実現のための構造改革路線を邁進しているかにみえる。そして今国会では、郵便局さえもが民営化の対象となっている。
この「小さな政府」路線はネオリベ(ネオリベラリズム=新自由主義)路線と呼ばれるもので、80年代から90年代にかけて規制緩和を促進し、社会保障の大幅な緊縮財政を行った米英のレーガン・サッチャー政権がとったネオリベ路線を彷彿とさせる。小泉政権が「20年遅れのネオリベ」と称される所以だ。
北海道大学教授の山口氏は、肥大化した中央政府が公共事業によって富をばらまく経世会的な再配分体勢は変革が必要だったとして、小泉政権の小さな政府路線には一定の評価は与える。しかし、山口氏は同時に、「問題は構造改革といっても何の構造をどう変えるのかが明らかになっていないこと」と、理念無き改革は手厳しく批判する。山口氏は、もともとネオリベラリズムとは富裕層を優遇することで、富裕層に集中した富が社会全体に滴り落ちる(tricle down)ことで再配分が果たされるとの立場を取るが、レーガン ・サッチャー時代を通じてその滴り落ち効果は期待できないことも、既に実証されていると説く。
もしそれが事実だとすると、ネオリベ政策が進めば一握りの億万長者がさらに裕福になる一方で、社会全体では福祉、教育、公共交通といった社会の土台が劣化し、公立校の水準の低下、失業中の若者の増加など、ひと昔前に米英が経験した悪夢が、今まさに日本の起きようとしているということになる。実際にその兆候も随所に見られる。
5月のイギリス総選挙では、ブレア政権の外交政策は批判を受けたが、「福祉漬け国家」(第一)でもなく「小さな政府」(第二)でもない「第三の道」は国民に支持され、ブレア政権は三期目に入った。日本でも理念無きネオリベ路線は脱却し、「第三の道」の理念を確立することが必要だと山口氏は説く。また、氏は自民党が第二の道路線を選択したことで、民主党に第三の道を選ぶチャンスが与えられているにもかかわらず、党内の意見を集約できない民主党の体たらくにも不満を露にする。
小泉ネオリベ路線は日本をどこに導こうとしているのか、日本に第三の道はあるのか。3ヶ月にわたりイギリスの総選挙を視察してきた山口氏とともに考えた。