石破元幹事長が総裁選への出馬を明言
衆院議員
1967年山口県生まれ。90年横浜国立大学経済学部卒業。同年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て2000年退職。同年、第一生命経済研究所入社。11年より現職。24年より日本FP協会専務理事を兼務。著書に『インフレ課税と闘う!』、『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』など。
自民党総裁選が9月27日に行われ、石破茂元幹事長が新総裁に選出された。10月1日に国会で首班指名を受け、石破政権が誕生することが確実視されている。
総裁選は実質的に安倍首相の政策路線の踏襲を掲げる高市早苗氏と、安倍政治に一貫して反旗を翻してきた石破氏との決選投票での一騎打ちとなり、僅差で石破氏が差し切った。結果的に石破政権は10年ぶりに安倍派の後ろ盾を必要としない、よってその縛りのかからない政権となった。
少なくとも過去10年にわたり日本の政治を支配してきた安倍政治や安倍元首相が進めてきたアベノミクスと決別することは容易いことではない。また、それに取って代わる政策の柱に石破政権が何を据えるのかは、まだ必ずしも明確になっていない。
小泉構造改革からアベノミクスへと、日本は新自由主義的な構造改革路線を突き進んできたが、その間、経済成長は実現できず、今も「失われた30年」から抜け出せずにいる。ここにきてようやくデフレから脱却できたのはいいが、逆に物価高に襲われ資源インフレの可能性も出ているなど、国民生活は圧迫され続けている。そうした中にあって日本経済を新たな成長路線に乗せられるかどうかは、新政権にとって最重要課題と言っても過言ではない。
第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、アベノミクスの弊害は大きかったと指摘する。なぜならアベノミクスは国内の経済格差を広げ、年金生活者や低所得者といった社会的弱者を苦しめる政策だったからだ。
岸田首相はアベノミクスに対してより分配を重視する「新しい資本主義」を掲げたが、権力基盤を安倍晋三氏や菅義偉氏に頼っていたために、ほとんど自らの主張する政策を実現することができなかった。しかし、統一教会問題と裏金問題で党内最大勢力の安倍派が壊滅状態に陥った中で誕生した石破政権は、政策的にはかなりのフリーハンドを与えられていると考えられる。
石破氏がいの一番に掲げるのが格差の是正だ。これは所得格差の是正と東京と地方の格差是正の両方を意味している。しかし、熊野氏は単なる再配分だけで格差を是正することはできないと指摘する。ポイントはまず石破氏が新自由主義やアベノミクスに対するはっきりとしたオルタナティブを掲げ、その政策によって日本が成長できることを示すことだという。
人口減少局面で経済成長を実現するためには、生産性を上げる必要がある。つまり、もっと稼げるようにならなければだめだということだ。
熊野氏は、石破氏の持論である地方創生には十分な成長の可能性があると語る。地方創生も従来型の補助金や公共事業だけではもはや実現は難しい。しかし、石破氏の推進する地方創生と、インバウンド振興やリモートワーク、AIの推進を組み合わせれば、日本にはまだまだ成長の伸びしろが残っていると熊野氏は言うのだ。
日本はインバウンドで年間10兆円も稼げるようになっているが、その対象地域はまだ一部の観光地に限られる。しかし、熊野氏は日本にはきちんと整備すれば多くのインバウンドが期待できる地域がまだたくさんあると言う。石破氏の地方創生の一環で日本中にインバウンドを呼べるようなインフラを整備し、AIの活用で日本語ができない人でも楽しめる環境を作る。そして、リモートワークやAIを活用することで、東京や都市部に住んでいなくても、同じような生産性=賃金を得られる仕事が可能となる環境を整えれば、石破政権の掲げる地方創生と日本全体の経済成長は十分に実現が可能だと熊野氏は言う。
石破氏はどのような経済政策を目指しているのか、日本には今どんな選択肢があり、石破政権はそれを実現することができるのかなどについて、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。