早急に支援体制を作らなければ災害関連死は防げない
医師、日本在宅ケアアライアンス理事長
福岡県生まれ。2003年東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業。06年国際医療福祉大学大学院博士課程修了。博士(医療福祉学)。日赤医療センター、オーストラリア小児病院勤務を経て09年厚労省入省。14年退官。浜松医科大学医学部助教などを経て17年より現職。同年、一般社団法人コミュニティヘルス研究機構を設立し理事長に就任。
能登半島地震からまもなく8カ月が経とうとしているが、当初から懸念されていた災害関連死が100人を超え、申請中の件数を含めると今後も増えることが予想されている。石川県災害対策本部の発表では8月21日午後2時時点で災害関連死は110人、死者の数は339人(行方不明者3人)となった。既に全体の3分の1が震災後に亡くなっている。
災害関連死は市町村が医師や弁護士などの専門家と協議して認定するもので、統一した基準があるわけではないため、認定されるまでに一定の時間がかかる。そのため現時点での災害関連死の数がそのまま被災地の現状を反映しているわけではない。しかし、現在も被災者の多くが震災当初と変わらないほど深刻な状況に置かれていると、能登町小木地区で開業をしている医師の瀬島照弘氏は指摘する。
ビデオニュース・ドットコムでは震災発生から間もない1月中旬に、瀬島氏に同行し支援の手が届いていない老老介護の在宅避難の状況をお伝えしたが、瀬島医師が訪問している被災者の中には、今も電気も水もない半壊の自宅で暮らす高齢女性がおり、熱中症や感染症が懸念される状況にあるという。バスが復旧していても運行されている本数が少ないため、実際には医療へのアクセスが困難だったり、精神的疲労などで家に引きこもっている被災者もいる。
阪神・淡路大震災以降、幾度となく震災を経験してきた日本は、さまざまな災害関連死を防ぐ取り組みを行い、支援の仕組みもできてきた。しかし、避難所や仮設住宅などの支援はあっても、ケアを必要とする在宅被災者に対する支援は未整備だ。この20年ほど国は、地域で最期まで暮らすことを目的に地域包括ケアシステムの構築を進めており、医療・介護・福祉の制度は在宅ケアにシフトしてきているが、こと災害支援については、いまだに病院・救急医療が中心の制度になっているのが実情なのだ。
こうしたなか、災害支援の経験があり厚労省の在宅医療関連の部署に勤務したこともある在宅看護専門看護師の山岸暁美氏は、コミュニティケアを推進してきた訪問看護師やケアの専門職を派遣するDC-CAT(Disaster Community-Care Assistance Team)を起ち上げ、全国の700人近い仲間とともに能登半島地震の被災地支援を行っている。発災直後は避難所支援、その後は福祉施設のスタッフの支援など、時が経つにつれてニーズが変わる被災地の現状に合わせて、地域に根ざしたケアのあり方を模索してきたという。
避難所の被災者のケアに関する公的支援が終了したあと、山岸氏は被災者が夜間に相談できる電話相談を始めた。仕事を再開したり、日中自宅の片付けなどをして避難所に戻った被災者が夜間に体調不良を訴えても、避難所には相談する場がなく、救急車を要請する前に相談できる#7119という制度も石川県になかったのだ。そのため今も、全国の看護師が当番制で被災者の相談に乗っているという。現在は新たな仕組みとして、看護師が被災者のもとに寄り添ってかかりつけ医とオンライン診療を行い医療へのアクセスを確保できるような仕組み作りを、各自治体と相談しながら進めている。
被災地の状況が変わっていく中でどういう支援が必要になるかは、現場に入って地域の人たちと話をして一緒に考えながら進めていかなければわからないと山岸氏はいう。災害関連死のリスクは現在被災者が置かれている生活の中にあり、その状況を理解しないと対策も立てられないのだ。
さらに、こうした支援を進めるためにも、災害法制に福祉の視点がないことが問題だと山岸氏は指摘する。全国社会福祉協議会も同様の視点で提言を行っており2年前にまとめられた「災害福祉支援活動の強化に向けた検討会」報告書では災害救助法第4条「救助の種類」に福祉を追記するよう求めている。
コミュニティケアの視点で被災地支援を続けるために何が必要か、今も能登半島の現場に足を運び続けている山岸暁美氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。