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2023年03月25日公開

沖縄密約をすっぱ抜いた西山太吉氏がわれわれに残した宿題

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1146回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2023年06月25日23時59分
(終了しました)

ゲスト

1946年京都府生まれ。69年大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。同年、共同通信社入社。本社外信部、ニューヨーク特派員、ワシントン支局長、特別編集委員などを経て2007年退職。名古屋大学大学院教授、早稲田大学大学院客員教授などを経て17年より現職。09年、外務省の「いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会」の委員を務める。著書に『仮面の日米同盟 米外交機密文書が明かす真実』、『秘密のファイル CIAの対日工作』、『ロッキード疑獄』など。

著書

概要

 2023年2月24日、沖縄密約をすっぱ抜いた元毎日新聞記者の西山太吉氏が亡くなった。91歳だった。

 西山氏の密約スクープは、その取材手法に対する批判も含め、多くの物議を醸した。しかし、あのすっぱ抜きが戦後の日本のジャーナリズム史の金字塔だったことだけは間違いない。これまで日本のジャーナリズム界で政府にとって不都合な機密を暴いた記者が西山氏以外にいただろうか。

 しかし、それだけ大きなスクープだったにもかかわらず、われわれはその後、西山氏が暴いた密約の意味をきちんと受け止めていないのではないか。

 1971年当時毎日新聞の外務省担当記者だった西山氏は、1971年6月に外務省の事務員から日米間の機密電文を入手し、翌年に迫った沖縄返還に際し、本来はアメリカ側が負担することになっていた土地の原状回復費を実際は日本が負担するという密約が日米間に存在することを暴いた。

 西山事件は今を生きるわれわれにとても大きな課題をつきつけている。

 まずは日本政府が国民を欺き、アメリカが負担するとしていた原状回復費を実際は日本の公費で賄っていたこと。そしてそれを秘密にしていたことだ。日本政府はこの「原状回復費負担の密約」の他にも、当時の佐藤栄作首相が「核抜き、本土並み」の沖縄返還だと国民に説明していたにもかかわらず、実は返還後も核の持ち込みを含む米軍基地の自由使用を認める密約が存在していた。「核抜き本土並み」は実際は「核付き、本土以下」であり、それが日米間では共通認識だったが、その内容は密約として秘密裏に処理されたため、日本国民にはあくまで「核抜き、本土並み」との偽りの説明が行われていたのだった。

 密約の存在をすっぱ抜いた西山氏が有罪判決を受け、その取材手法にも激しい批判が集まったため、その後、密約に対する追及は影を潜めてしまった。ようやく1990年代後半になって、アメリカ側で当時の公文書の機密が解除され、密約の存在が改めて確認されたが、その後もメディア密約問題を積極的に取り上げることはなかった。

 事件の後、毎日新聞を退社し事実上「筆を折る」選択をした西山氏だったが、アメリカ側の情報公開によって密約の存在が確認されると、2000年代に入ってから徐々に公的な場での発言を再開していた。ビデオニュースの取材にも何度か応じた西山氏は、「今の日米関係にとっても、沖縄が置かれた状況についても、あれ(沖縄密約)が発端だった」と語っている。沖縄密約の原点に立ち戻ってボタンの掛け違いを正さない限り、憲法9条で交戦権の放棄を謳っていながらアメリカの世界軍事戦略に全面的に引き込まれている今日の異常な日米関係も、返還から50年が経った今もなお重い基地負担に喘ぐ沖縄の状況も、変えることはできないと西山氏は言うのだ。

 西山氏は男女関係にあった外務省の事務官から機密情報の提供を受けたことが取材手法として不適切だったとして、社会から激しい指弾を受けた。また、西山氏が第三者に提供した機密文書が最終的に当時の社会党の議員の手に渡り、国会における政府の追及に使われることになったことも、取材で得た情報の目的外利用に他ならず、メディア倫理的には非常に問題の多い行動だった。

 そうした問題について西山氏が批判されるのは当然だ。しかし、同時に西山氏が暴いた密約によって国民を騙した政府の責任や、その嘘によって覆い隠されてしまったその後の日米関係の本質、そこで始まった基地の自由使用に蹂躙され続ける沖縄の現状などが、西山氏の取材手法の問題と同じくらい、いやそれよりも遙かに大きなウエイトを持って追及されなければおかしくないだろうか。

 日本では2009年に政権交代があり、新たに政権の座についた民主党政権岡田克也外相が沖縄密約を含めた日米間の4つの密約を改めて検討する有識者会議を設置した。今回のゲストの春名幹男氏は6人からなるその有識者会議のメンバーの一人だった。1990年代後半にアメリカ側で機密が解除され公開された文書によって密約の存在は裏付けられていたが、その段階で日本政府は密約の存在を認めていなかったため、その有識者会議が日本政府が過去の過ちを正す絶好の機会を与えてくれるはずだった。

 ところが有識者会議の最終報告書は外務省の意向に引きずられた結果、「狭義の密約」と「広義の密約」などという言葉遊びが弄され、最終的に沖縄密約があったのかどうかが釈然としない不透明な内容に終わってしまった。

 しかし、沖縄密約はまちがいなくあった。日本側は戦争で奪われた土地の返還を実現するにあたり、原状回復費はアメリカ側が負担しなければ日本の世論は納得しないと考えた。一方、アメリカ側は国内、とりわけ軍の内部に沖縄返還への反対論も燻るなか、原状回復費は日本が負担しなければ議会が納得しないと主張した。そして、自身の任期中に何が何でも沖縄返還という偉業を成し遂げ自らの功績としたい功名心に走る佐藤首相が、沖縄返還を急いでいることをアメリカは熟知していた。アメリカからその足下を見られた結果、日本側が原状回復費を負担するスキームが秘密裏に取り決められ、国民には嘘の説明が行われた。広義か狭義か知らないが、これは密約以外の何物でもない。

 有識者会議のメンバーとして日本では依然として機密とされている文書へのアクセスも認められた春名氏は、有識者会議が検証したすべての密約について、密約を裏付ける文書が存在していたと証言する。特に西山氏が暴いた原状回復費400万ドルを日本が肩代わりすることに関しては、吉野文六・外務省アメリカ局長とスナイダー駐日大使(ともに当時)との間で1971年6月12日に交わされた文書がアメリカで開示されており、密約が存在していたことは明白だが、同時に春名氏は日本側では多くの文書が廃棄されており、アメリカ側で確認ができても日本側では確認ができない文書が多くあったと語る。

 西山氏が暴いた沖縄密約とは何だったのか、返還から半世紀が過ぎた今もなお、政府が密約の存在を認めないのはなぜなのか。なぜ当時のメディアはこの問題を追求しなかったのか。それが今日の日米関係にどのような影を落としているのかなどついて、春名氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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