「年収の壁」と「働き控え」を克服するためのベストな方法とは
大和総研主任研究員
1978年神奈川県生まれ。2008年神奈川新聞入社。デジタル編集部、報道部遊軍記者、経済部キャップ、報道部(司法担当)を経て22年より報道部デスク。著書に『ルポ 特殊詐欺』、『令和日本の敗戦』など。
フィリピンから特殊詐欺の指示を出していたとされる4人の日本人が強制送還され、日々その一挙手一投足に注目が集まっている。
報道がやや過熱気味なところはあるが、とはいえ今の日本で特殊詐欺の蔓延が深刻な社会問題となっていることに疑いの余地はない。
これまで特殊詐欺と言えばオレオレ詐欺や還付金詐欺に代表されるような、言葉巧みに高齢者を騙してカネを奪い取る手口が一般的だった。しかし、ここに来て特殊詐欺グループの手口が凶暴化し、遂に強盗や殺人事件を引き起こすまでに至っている。その背景について神奈川新聞記者で著書『ルポ 特殊詐欺』の著者でもある田崎基氏は、特殊詐欺グループに取り込まれた若い世代の「受け子」や「出し子」たちが、グループの首領や指令役などに多額のノルマを課されて追い詰められた結果、手荒な手段に出ざるを得なくなっているケースが多くなっているからだと語る。
従来型の特殊詐欺も依然として増え続けている。警視庁によると2021年の特殊詐欺の認知件数は17,520件、被害額は361億円にのぼる。これは日本では毎日48万件の特殊詐欺事件が起き、毎日1億円が騙し取られているという計算になる。
2004年に初めて定義され類型化された特殊詐欺は、その後一時的に減少に転じた時期もあったが、結局ほとんど減ることがないまま拡がり続け、2004年から2022年までの18年間の被害総額は優に5,000億円を越えている。また、その手口もますます手が込んだ複雑なものになっている。
特殊詐欺が一向に減らない理由について田崎氏は、特殊詐欺が嘘の電話をかける「かけ子」や、被害者から直接現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」のように役割が細分化され、その間の連絡はSNSなどを使って行われるため、仮に受け子が捕まったとして彼らの上に君臨する指令役やグループの首領が摘発されることは滅多にないような仕組みになっている点を指摘する。そもそも「かけ子」や「受け子」は、指令役や首領の顔さえ知らない場合が多い。そのため、どれだけ下っ端の実行犯を捕まえてもトカゲの尻尾切りにしかならないのだ。
警察に捕まる危険性が最も高い「受け子」や「出し子」は、SNSなどを通じて、最初は犯罪行為だとは知らされずにリクルーティングされた、社会的にも経済的にも弱い立場にある若者の場合が多い。彼らが特殊詐欺の片棒を担がされていることを認識した時は、既にどっぷりと犯罪集団に取り込まれ、弱味を握られるなどしているために抜け出せなくなっていることが多いと田崎氏は言う。実際、特殊詐欺で逮捕された人の7割は30歳以下だ。その一方で被害者の9割は60歳以上となっている。つまり、特殊詐欺というのは、暴力団や犯罪組織が経済的に弱い若者を実行犯としてリクルーティングし、2,000兆円と言われる日本の金融資産の7割を保有している60歳以上の高齢者から資産を奪う仕事をさせているという性格を持っているのだ。
田崎氏は特殊詐欺を撲滅するためには厳罰化が不可欠だと言う。これまで特殊詐欺は既存の法律の枠内で処理され、詐欺罪や電子計算機使用詐欺罪や窃盗罪などの罪状が援用されてきた。しかし、これでは最長でも10年以下の懲役止まりだ。これだけ特殊詐欺が増え、被害額も天文学的数字に及んでいるという立法事実がある以上、一刻も早く法制度を現状に対応したものに変えていく必要があると田崎氏は言う。
なぜ特殊詐欺という世界の他の国では例を見ないような犯罪形態が日本では蔓延し続けるのか。なぜこれを撲滅させることができないのか。特殊詐欺にわれわれはいかに対処すればいいのかなどについて、田崎氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
また番組冒頭では、荒井秘書官の差別発言の舞台となったオフレコ懇談の是非と、環境アセスメント面でも都市計画上も問題の多い神宮外苑の再開発計画が、着工寸前まで来てしまっている現状についてコメントした。