コロナに負けない免疫力をつけるために
医師・大阪大学名誉教授
1948年滋賀県生まれ。73年京都大学医学部卒業。熊本大学医学部教授、京都大学大学院医学研究科教授、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター副センター長などを経て、13年より現職。医学博士。専門は幹細胞研究。共著に『岩波講座 現代医学の基礎〈8〉免疫と血液の科学』、『免疫―免疫システムと免疫病』など。
世界的に新型コロナウイルスのワクチン接種が始まっている。このワクチンが新型コロナウイルスに対して変異種も含めて一定の予防効果があり、大きな副反応を引き起こさないことが確認され、保存や輸送などのロジスティックの問題さえ解決できれば、人類は恐らく21世紀最大のピンチといっても過言ではない新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を克服し、コロナ以前の日常を取り戻せるかもしれないとあって、ワクチンに対する期待はことのほか大きい。
しかし、その一方で、通常のワクチンであれば安全が確認され承認を得るまでに優に10年の年月を要するのに対し、今回の新型コロナワクチンは非常時とはいえ1年にも満たない短期間で承認を得たこともあり、ワクチンに対してそこはかとない不安を抱いている人が少なからずいるのも事実だろう。特にピーク時には毎月万人単位で死者が続出していた欧米諸国と比べ、感染者数も死亡者数もはるかに少ない日本で、仮にワクチンが普及したとしても、急いで接種を受けるべきかどうかを逡巡している人が一定数いることも理解できるところだ。
メディアはコロナワクチン接種の実施状況については毎日のようにあれこれ報じているが、一般の市民がワクチン自体をどう評価すべきかを考える上で必要な情報が圧倒的に不足しているように感じられる。メディアの立場としては、必要以上にワクチン接種を推奨して、後に深刻な副反応などが明らかになった時に責任を問われることを懸念する一方で、ワクチンに対する否定的な情報を報じることによって結果的に不安が煽られ、接種を拒否する人が増えても困るので、中々ワクチンの中身には踏み込みにくいという判断が働いているのかもしれない。
そこで今週のマル激では、難しい科学をわかりやすく解説することで定評のあるウェブサイト『オール・アバウト・サイエンス・ジャパン』の主宰者で自身も医師であると同時に長年、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターで幹細胞の研究に携わってきた同研究センターの元副センター長・西川伸一氏に、現在流通している数種類のワクチンについてそれぞれの仕組みや、日本が現在医療関係者から接種を始めているファイザー社とビオンテック社が共同開発したmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンが作用する仕組み、現在流通しているワクチンの長所と弱点、今後期待されるユニバーサルワクチン(一度打てばすべてのコロナウイルスに対して予防効果があり、長期間効果が持続するワクチン)開発のカギ、人類がコロナを克服する上でワクチンが決め手となると考えられる理由などについて、徹底的に解説してもらった。
西川氏は今回の一部のコロナウイルスのワクチンで使われているmRNAワクチンという技術自体は、コロナが流行する遙か以前からガンやその他の治療薬として研究が進められてきたもので、決して今回コロナのために拙速に導入されたものではないと指摘する。また、アストラゼネカ社のウイルスベクター型ワクチンとファイザー社やモデルナ社のmRNA型ワクチンとでは変異種に対する効果が期待できるという点ではmRNAワクチンが有利だが、その効果がいつまで持続するかはまだわかっていないと語る。いずれにしても現在流通しているワクチンでは、毎年2回予防接種を打ち続けなければ効果が持続しない可能性もあることから、効果の点と身体への負担という点からまだまだ課題は多い。その上で西川氏は、コロナのワクチン開発ではスタートで大きく出遅れた日本は、長期にわたり効果が期待でき、変異種も含めた全てのコロナに効果のある「ユニバーサルワクチン」の開発に力を注ぐべきだと語る。
現時点ではワクチン以外に人類が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を克服する手段が見えていない以上、ワクチンに救世主役を期待するのは当然のことと語る西川氏に、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が、ワクチンについてわからないことのすべてを聞いた。