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2020年10月10日
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安倍政権の検証(6)
政権中枢の思想と新自由主義に振り回され続けた教育改革

村上祐介氏(東京大学大学院教育学研究科准教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第1018回(2020年10月10日)

 安倍政権の検証シリーズ第6弾は、今後長期にわたって影響が響いてくるであろう教育分野を取り上げる。

 教育再生を政権の柱の一つとして掲げ、第一次政権で念願だった教育基本法の改正を実現した安倍政権は、2012年に再び政権の座に返り咲くと、直ちに教育再生実行会議を起ち上げて、第一次政権で志半ばにして中断していた教育改革の再開に取りかかった。これまで教育分野における政府の方針を決定してきた中教審(中央教育審議会)はこの実行会議の下に置かれる形になり、党の教育再生実行本部長を務めてきた下村博文衆院議員が、そのまま文部科学大臣兼教育再生担当大臣に就き、従前より提唱してきた道徳の教科化や大学入試の見直しなどの「改革」を矢継ぎ早に実施に移した。

 自民党が長年にわたり主張してきた道徳の教科化は安倍政権の下で、一昨年から小学校で、去年からは中学校で実際に始まっている。昨今話題になっている日本学術会議が今年6月、「道徳科において『考え、議論する』教育を推進するために」と題する報告書の中で、現在の道徳教育が国家主義に傾斜していて自由や権利が強調されていない点や、特定の価値の押しつけが行われており、社会の多様性への理解が不十分なことなどを問題点として指摘している。この報告書が今回の任命拒否にどう影響しているかはわからないが、主体的に学ぶ力をつけるという教育の大目標と照らし合わした時、現在の教科としての道徳が強調する特定の価値の注入との間には明らかな矛盾がある。それが子供たちに対し、ある種の思考停止を要求する結果を生むのではないかと、東大准教授で教育行政学が専門の村上祐介氏は危惧する。

 特定の価値を前面に押し出す一方で、安倍政権下の教育改革は新自由主義的な色合いも強い特徴を持つ。世論の強い反対に遭い最終的には撤回されたものの、当初は大学入試への民間試験の導入が決定されていた。村上氏はこれを、「カネをかけない教育改革」を進めようとした結果だったと指摘する。実際、安倍政権下では国の予算が全体的に大きく膨らむ中、文科省予算は5兆3000億円台とほぼ横ばいか、もしくは漸減が続いている。教育改革を旗印にしている安倍政権が、予算的には文科行政を蚊帳の外に置いているのが実態だ。

 もともと日本は先進国中、最も公的な教育支出が少ない国だ。今年9月に公表されたOECDの最新データによれば、2017年の大学と高専を含めた日本の公的教育支出の総額は対GDP比で4%に届かず、OECD平均の4.9%を大きく下回る。他の先進国ではノルウェーの6.7%を筆頭にアメリカ、イギリス、フランスなども軒並み6%を超えており、日本は韓国やトルコ、メキシコよりも低い水準にある。安倍政権はそれを更に削ろうとしていたのだ。

 教育行政に対する政治の統制が強まるなかで、従来の政策決定のプロセスを無視する形で施策が決定されるようになったことも大きな問題だ。新型コロナ対策として官邸主導で打ち出された一斉休校も含め、政権が一方的に(時には科学的な根拠もなく気まぐれで)トップダウンで施策を決め、実行は現場に丸投げされる形となっている。結果として、政権が自ら「働き方改革」をスローガンに掲げながら、学校現場の勤務時間は10年前に比べて長くなっている。

 かと思えば、一部の利権が幅を利かせていると受け止められかねない行為が、方々で散見される。「森友学園」や「加計学園」問題は文部科学行政に対する信頼を大きく傷つけた。こういうことが続くと、安倍政権の教育改革なるものが、果たして本当に思想的な動機から裏付けられたものなのかどうかさえ疑わしくなる。実は思想を煙幕にした、単なる利権政治だったのではないかとの疑いが出てくるということだ。無論、真に思想的な動機があればいいことを意味するものではないが。

 日本学術会議の任命拒否問題とも関わってくることだが、そもそも教育行政がその時々の政権の意向やその思想的傾向に容易に左右されてしまって良いのだろうか。仮に教育行政に政治が関与する余地があるとすれば、どこまでの介入が許されるべきなのか。一政権の枠を大きく超えて、末永く国の将来に影響を与えることになる教育政策は、より中立的な立場から議論され、決定される必要があるのではないかと、村上氏は問題提起する。

 現在、教育行政への政治的関与の国際比較研究のために米・カリフォルニア大学バークレー校教育大学院にビジティング・スカラーとして所属している村上祐介氏とリモートで結んで、社会学者・宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。

 
東京大学大学院教育学研究科准教授
1976年愛媛県生まれ。99年東京大学教育学部卒業。2004年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。日本学術振興会特別研究員、愛媛大学法文学部准教授、日本女子大学人間社会学部准教授などを経て、12年より現職。現在、米・カリフォルニア大学バークレー校教育大学院ビジティング・スカラー。著書に『教育委員会改革5つのポイント―「地方教育行政法」のどこが変わったのか』、『教育行政の政治学―教育委員会制度の改革と実態に関する実証的研究』など。

 

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