夫の私が妻の姓を選んでわかったこと
社会学者、龍谷大学社会学部非常勤講師
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1981年東京都生まれ。2004年早稲田大学教育学部卒業。07年同大学大学院教育学研究科修士課程修了。04年から05年まで女子フェンシング日本代表。09年大手外食系企業に就職。12年退職。14年株式会社ニューキャンバスを設立し代表に就任。渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員、日本フェンシング協会理事、日本オリンピック委員会理事を兼務。著書に『元女子高生、パパになる』、『3人で親になってみた』など。
最高裁は7月11日、経済産業省のトランスジェンダー職員の女性トイレ使用制限を違法とする決定を下した。
原告は、生物学上は男性だったが、性同一性障害の診断を受け、女性ホルモンの投与を続けることで、女性として生活を送ってきた。職場にも自身の状況を説明したが、その際、女性職員の中に違和感を持つ人がいるかもしれないという理由で職場近くのトイレを利用することを禁じられ、2フロア離れたところにある別の女性トイレを利用するよう求められた。このような措置が数年間続いた後、原告が職場のあるフロアの女性トイレを利用したいと申し出たところ、人事院がこれを認めない判定をしたため、訴えを起こした。
最高裁第三小法廷は原告の訴えを認め、人事院による女性トイレの利用制限は違法との判断を全員一致で示した。さらに5人の裁判官全員が補足意見を述べたことから、この判決は注目を集めた。
この裁判の背景の一つに、性同一性障害特例法という2004年にスタートした法律の存在がある。戸籍の性別を変更する要件を決めた法律で、すでに1万人近くがこの法律の下で性別変更を行っているが、原告はこの要件の一つである性別適合手術を受けておらず、戸籍上は男性のままだった。
トランスジェンダーをめぐる世界的な潮流は、この20年で大きく変わっている。性同一性障害は疾患ではないということからWHOの医学用語の分類からは除外され、多様な性のあり方の一つとして認識されている。手術を受けて生殖能力を永久的に喪失していることを性別変更の要件としている日本の性同一性障害特例法自体が違憲ではないかという議論が起きている。
自身がトランスジェンダーであり、戸籍上は女性のまま男性ホルモンの投与を受けて男性として生活を送る杉山文野氏は、今回の判決を評価したうえで、トランスジェンダーの問題は感覚的・抽象的に語るのではなく客観的・具体的に考えることが重要だと指摘する。依然として根強い差別や偏見が残る中、トランスジェンダー当事者が実際に何に困っているのかやどういう思いで暮らしているのかなどを知り、特別な権利としてではなく、人として安心した気持ちで暮らせるよう考えてほしいと杉山氏は訴える。
その視点から考えた時、先月成立したLGBT理解増進法にも課題は残る。根強い差別や偏見に晒されるトランスジェンダー当事者の権利をどう守るのか、真の理解のためには何が必要なのか、トランスジェンダー当事者として活動する杉山文野氏にジャーナリストの迫田朋子がインタビューした。