日米合同委員会は米軍の超法規性を話し合う場
元外務省国際情報局長
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1943年満州・鞍山生まれ。66年東京大学法学部中退。同年外務省入省。モスクワ大学留学、ハーバード大学国際問題研究所研究員、国際情報局長、イラン大使、防衛大学校人文社会科学群教授などを経て2009年退官。城西国際大学大学院人文科学研究科講師。東アジア共同体研究所理事・所長などを兼務。著書に『日本外交 現場からの証言 握手と微笑とイエスでいいか』(山本七平賞受賞)、『アメリカに潰された政治家たち』『日米同盟の正体』など。
ウクライナ戦争が泥沼化の様相を呈し始めている。元外務省国際情報局長で評論家の孫崎享氏は、アメリカの近代兵器の威力を過小評価したロシアのプーチン大統領が、戦車で領土を蹂躙すれば容易にウクライナを降伏に追い込めると軽々に判断したことに、泥沼化の原因があると指摘する。単純な軍事力の比較ではウクライナの年間防衛予算59億ドルに対し、ロシアのそれはその10倍を超える660億ドルにものぼる。本来であれば軍事力ではとても勝負にならないはずの両国だが、ウクライナ軍がアメリカの軍事支援によって得たジャベリン、スティンガーなどの対戦車ミサイルによって、少人数の部隊でもロシアの戦車部隊を壊滅に追い込めるほどの力を持ったことで、ロシアの領土的な侵攻は度々立ち往生することになった。
孫崎氏によると、それでもアメリカはここまで、ウクライナに提供するのは防衛的兵器に限定しており、ウクライナ側からの度重なる要請にもかかわらず、攻撃的兵器の提供は自重しているのだという。いずれにしてもウクライナ戦争の戦況が、アメリカの軍事援助次第でどちらに有利に傾いてもおかしくない状況なのだと孫崎氏は言う。
そして問題は、アメリカがウクライナ紛争の長期化が自国にとっての利益になると判断しているように見える点だと孫崎氏は言う。バイデン政権がアメリカの兵器産業の強い影響下にあることは公知の事実であり、政権入り直前までジャベリンやスティンガーの製造元であるレイセオン社の取締役を務めていたオースティン国防長官を筆頭に、バイデン政権には軍事産業の影響下にある重鎮が多いが、2月24日のロシアの侵攻以来、アメリカの兵器産業は空前の好景気を楽しんでいる。株価は軒並み高騰し、ウクライナ支援の名の下に事実上、アメリカの兵器産業に兆円単位の予算が流れ込んできている。アメリカの対ウクライナ軍事援助は3兆円にのぼるが、これはアメリカがウクライナに資金を提供しているのではなく、兵器を現物で提供している。その分の予算はアメリカの軍事産業にそのまま流れ込むことになる。
またウクライナ戦争が長引けば、ロシアは弱体化の一途を辿ることになる。これもアメリカにとっては好都合だ。そして、ロシアの脅威を目の当たりにしたヨーロッパ、とりわけNATOの結束が強まり、欧州におけるアメリカの影響力も増すことになる。まったく兵員を出していないため、一切の人的な被害を受けることのない戦争で、アメリカはこれだけのメリットを享受できる立場にいることになる。
孫崎氏は、アメリカがウクライナが負けない程度の援助を続けることで、ウクライナ東部などで戦闘がゲリラ戦のような形で延々と続くことになるのではないかと見る。無論、その間、ウクライナもそしてもちろんロシアも、多くの犠牲者や負傷者を出し、ウクライナの国土の荒廃が続くことになる。ヨーロッパの穀倉地帯のウクライナで紛争が続けば、世界はこれから未曾有の食糧難に苦しむことになる可能性が高い。ウクライナのゼレンスキー大統領は6月2日、米メディアとのインタビューで、今ウクライナでは1日あたり約100人の兵士が死亡していると語った。これは年間3万人以上が死亡することを意味している。この数はアメリカにとってはもっとも多くの人的犠牲を出したベトナム戦争における1日あたりの死者数を大きく上回るものだ。
孫崎氏にウクライナ戦争の現状と今後の見通しなどについて、ジャーナリストの神保哲生が聞いた。