裏金が作り放題の政治資金規正法の大穴を埋めなければならない
神戸学院大学法学部教授
弁護士、元検事
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1955年島根県生まれ。77年東京大学理学部卒。三井鉱山勤務を経て80年司法試験合格。83年検事任官。東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事、東京高検検事などを経て、2006年退官。08年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)を設立。10年法務省「検察の在り方検討会議」委員。著書に『「深層」カルロス・ゴーンとの対話:起訴されれば99%超が有罪となる国で』、『検察崩壊 失われた正義』など。
世界に大きな衝撃を与えた日産自動車のカルロス・ゴーン会長の逮捕から2日が経ち、今回のゴーン会長に対する容疑の内容が次第に明らかになってきた。
今回の逮捕容疑は金融商品取引法違反というもの。証券取引法第24条に基づいて、上場会社など有価証券を発行する会社が、事業年度終了後3カ月以内に、会社の目的、役員、営業及び経理等の状況及び事業の内容に関する重要事項を記載して内閣総理大臣に提出する「有価証券報告書」に、役員報酬額を実際の金額よりも少なく記載した容疑だという。
逮捕以来、メディアではゴーン会長が5年間で50億円の報酬額を過小に記載をして提出したことに加え、世界各地に不動産を保有しきらびやかなセレブ生活を送っていたことなどが大きく報じられるなど、いつものように逮捕された容疑者が極悪人であるかのような印象操作をうかがわせるリーク報道が全開中だ。
しかし、元特捜検事で企業法務にも詳しい郷原信郎弁護士は、今回のゴーン会長の容疑に強い疑問を呈する。
当然ながら、有価証券報告書はゴーン会長自身が個人的に書いて提出するものではない。会社の担当幹部の指示を受けて、担当部署が提出するものだ。ゴーン会長直々の命により、会社側の意に反して虚偽の報告書を提出することになったというのであればわからなくもないが、それにしても会社が正式に提出した報告書の虚偽記載容疑で、ゴーン会長とグレッグ・ケリー代表取締役という大企業のトップ2人が真っ先に逮捕されるというのは、どう見ても不可解だと郷原氏は言う。
日経新聞などによると、50億円の虚偽記載のうち40億円分はストックアプリシエーション権(SAR)と呼ばれる株価連動報酬だったという。ゴーン氏はこの分は有価証券報告書には記載する必要がないとの立場をとっていたのに対し、東京地検特捜部は記載が必要だったとの立場だというが、それはあくまで解釈の相違ということになる。それだけで特捜部が日産ほどの企業のトップをいきなり逮捕するだろうか。
また、19日夜の会見で日産の西川廣人社長が明らかにした「私的な目的での投資資金の支出、私的な目的の経費の支出」や、その後報道されているような世界各地での不動産の取得も、それが会社に損失を与えたのであれば特別背任などが成り立つ可能性があるが、会社名義で不動産を取得して個人的に利用しただけでは、逮捕に値するような犯罪にはならない可能性が高い。
こうなると、一部で報道されているように、今回の事件に関与した日産の幹部と検察の間で司法取引があったという話が現実味を増してくるが、郷原氏は実際はそれも考えにくいという。有価証券報告書を作成した幹部や担当者にとっては、報酬が発生した事実も不記載の事実も、いずれも客観的に明らかな事実だ。司法取引の前提となる、自らの罪を軽減してもらう見返りに秘匿情報を提供するという条件が成り立たないからだ。
もし、日産幹部と検察の間に何らかの取り引きがあったとすれば、それは「捜査協力と処罰軽減の合意」ではなく、ゴーン氏とケリー氏だけを狙い撃つ合意しか考えられないことになる。もしそうだとすれば、それは今年6月に導入された「日本版司法取引」とは全く異なるものだ。
不可解なゴーン逮捕劇と金融商品取引法違反容疑の持つ意味、無理筋と思われる司法取引の可能性などについて、郷原氏にジャーナリストの神保哲生が聞いた。