NATOの「自分探し」とロシアのウクライナ軍事侵攻の関係
東京外国語大学大学院教授
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1957年東京都生まれ。80年早稲田大学理工学部卒業。84年インド国立ボンベイ大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了(後期中退)。86年早稲田大学大学院理工学研究科都市計画専攻修了。東チモール暫定統治機構県知事、国連シエラレオネ派遣団武装解除統括部長などを経て、日本政府特別顧問としてアフガニスタンの武装解除を指揮。立教大学教授などを経て2009年より現職。著書に『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』、『武装解除 紛争屋が見た世界』など。
安倍政権では集団的自衛権の行使を可能にする安保法制を制定したり、首相自らがイスラム国(IS)と戦う意思を明示するなど、外交、安全保障面でも大きな政策転換があった。
安倍政権の首相の外交・安全保障分野をどう評価すべきかについて、東京外語大学総合国際学研究院の伊勢崎賢治教授にジャーナリストの神保哲生が聞いた。
伊勢崎氏は安倍政権は敵を多く作ったという意味で、外交、防衛面ではマイナスな点が多かったと指摘する。これは歴代内閣の中でも突出していると伊勢崎氏は言う。
特に安倍首相が昨年1月の中東訪問中に、イスラム国と戦う国への支援と称して2億ドルの援助を発表したことについて、伊勢崎氏は不用意だったと指摘する。
「これまでも日本は難民支援は行ってきた。実際はそれを継続しているだけで何も新しいことではないのに、安倍首相はわざわざ不用意にも「ISと戦う国のために」の枕詞をつけてしまった。」伊勢崎氏はこう語り、アメリカに対するリップサービスはいいが、それで要らぬ敵を作る必要はなかったと指摘する。
一方で、そうまでしてアメリカにリップサービスをした結果得るものは、何もないとも伊勢崎氏は言う。安保法制を含め、日本が今まで以上にアメリカにすり寄る背景には、日本と中国との関係が緊張し、万が一の際にアメリカが日本に肩入れしてくれるという期待がある。しかし、米中関係は独自のルートで二国間関係を深めており、日本がISと戦うポーズを見せたところで、対中戦略でアメリカのスタンスが変わるというものではない。
「日本は無用の敵を作っている」と伊勢崎氏は言う。
その上で伊勢崎氏は、安倍政権が強引に成立させた安保法制の影響を懸念する。まだ安保法制が実際には発動されていないが、これに基づいて自衛隊が海外で軍事行動を行うことになった場合、それがPKOであれ、アメリカ軍の兵站であれ、犠牲者が出る可能性がある。また、自衛隊が相手国の国民を殺傷してしまう可能性もある。現在の日本国憲法の下では自衛隊は軍隊ではないので、海外で武力を行使して人を殺せば、殺人罪で起訴される恐れがあるというのだ。
自衛隊の身分を現在のような不安定なままで海外に出すことにもリスクは大きいが、安保法制によって戦闘行為に巻き込まれる可能性も飛躍的に拡大している。この選挙はこのリスクの是非も問われるべきだろう。
(聞き手 神保哲生(ビデオニュース・ドットコム))