患者に必要な薬が届かなくなっている現状を看過することはできない
元厚労省医薬・生活衛生局長、岩手医科大学医学部客員教授
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安倍晋三首相は5日に発表したアベノミクス「第三の矢」の成長戦略。「大胆な規制緩和によって一人あたり国民総所得を10年後に150万円以上増やす」と鼻息は荒いが、その目玉とされる市販薬のインターネット販売の解禁について薬害の専門家たちの間から疑問と懸念があがっている。
薬害オンブズパースン会議事務局長でイレッサ薬害訴訟の原告代理人などを務める水口真寿美弁護士は、そもそも医薬品のネット販売の解禁が成長戦略に組み込まれていること自体がおかしいと指摘する。
「医薬品は本当に必要な人だけが購入するもの。病気ではないが念のために飲んでおこうとか、買いやすくなったから余分に買っておこう、余分に呑んでおこうといったことはあり得ない。必要な人はこれまで店舗で買っていた。その一部がネットに移るという話に過ぎない」と水口弁護士は指摘する。そもそもネット販売の解禁によって薬の売り上げが増えるというようなこと自体があってはならないことだと言うのだ。
また水口氏は、一般用の医薬品でも死亡に至る副作用が起きていることへの注意を喚起する。厚労省の資料によると、2007年から2011年の間、国に報告された市販薬の副作用は毎年250症例前後にのぼり、そのうち5年間で死亡症例も24例あったという。その中には、一般的に売られているかぜ薬によってスティーブンス・ジョンソン症候群等の重い副作用が起こり、死亡に至った症例も報告されていると水口氏は言う。
「被害は一度起きれば、人生が変わるくらい深刻な事態に陥ることもある。ネット販売解禁の利便性ばかりを強調する人は、そうした事実を知らないのではないか。対面でのやりとり、即時のその場のコミュニケーションで、医療機関受診をすすめたり、他の薬をすすめたり、販売を断ったりということが可能になる。そういうことがネットではむずかしい。」と水口氏は語る。
ネット販売の全面解禁には反対の立場の水口氏ではあるが、現在の店舗での対面販売のあり方にも問題はあると言う。2006年の薬事法の改正では、対面販売によって薬剤師のアドバイスをもらいながら薬を買う文化が根付くことが期待されていたが、それが十分に実行されてこなかった。「対面販売のメリットを消費者が感じていないことが、今回のネット販売全面解禁につながったことは残念」と水口氏は言う。
「そもそも業界団体がきちんとやってこなかったことが問題だが、だからネット販売を解禁にしましょうでは、業界団体の怠慢のつけを消費者に払わされることになる。どうせ実店舗だってできていないのだからネット販売を規制するのはおかしいという理屈はおかしい。まずは実店舗での販売をきちんとできるようにするのが筋だ。」水口氏はこのように語り、副作用のなどのリスクの最も大きい第一類が全面解禁になれば「次は処方箋薬をネットで売ろうという話になる」と、さらなる自由化への懸念を表明した。