少子化対策と医療・介護をバーターにしてはいけない
淑徳大学総合福祉学部教授
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生活保護法の改正案の審議が国会で始まる。
世界で最先端の高齢化社会を抱える日本は、本来であれば生活保護を含む社会保障全般のあり方を根本から議論し、再構築しなければならない局面を迎えているはずだ。しかし、今回の法改正を見る限り、問題の本質とはほど遠い不正受給の防止に力点が置かれ、生活保護申請のハードルをより高くする施策が多く含まれているなど、どうも建設的な方向に向かっているとは思えない面がある。
各国の社会保障制度に詳しい中央大学の宮本太郎教授は、日本は今、生活保護を含む社会保障制度全般をより持続可能なものにしていく必要があると語る。
戦後の日本では、終身雇用制度の下、現役世代の社会保障は企業がかなりの部分を引き受けてきた。生活保護はどうしても働けない人たち向けの制度という面が少なからずあった。そして、日本の公的社会保障制度は年金など高齢者を対象とした給付に重点が置かれていたところに、雇用が不安定化し、現役世代に生活保護を必要とする人が急増した。それが、昨今の生活保護受給者数215万人、財政負担3.8兆円という数字に表れ、焦った政府は不正の防止に躍起になっている。
しかし、そもそも215万人でも補足率は2割程度だと言われるのが現実である。われわれの真の課題は0.4%と言われる不正受給者に着目するのではなく、それだけの人が生活保護に頼らなくてもよい社会を作っていくことではないか。
宮本教授はいま日本に必要なのは、生活保護や自立支援の仕組みを整備して、支え手である「分母」の部分をいかに安定化させて大きくしていくかだと言う。さらに宮本氏は「財政健全化など、財政の持続可能性ばかりが優先されると、社会自体の持続可能性が脅威にさらされる。2つを一体的に考える政策が不可欠だ」と指摘する。社会保障を軽視しすぎると、結果的に財政も社会も共倒れになりかねないというのだ。
われわれは今、どのような理念をもって生活保護制度や生活困窮者の自立支援制度を整備すべきなのか。政府の社会保障審議会のメンバーとして生活困窮者自立支援策のとりまとめにも関わった宮本太郎氏に、ジャーナリストの神保哲生が聞いた。
(聞き手 神保哲生(ビデオニュース・ドットコム))