2016年01月30日公開

5金スペシャル

映画が描く人工知能と人間のこれからの関係

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第773回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(期限はありません)

ゲスト

電気通信大学大学院情報システム学研究科教授

1965年神奈川県生まれ。90年慶應義塾大学理工学部卒業。92年同大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年NTT入社。NTT基礎研究所研究主任、NTT未来ねっと研究所研究主任などを経て2002年退職。慶應義塾大学非常勤講師、大阪大学大学院助教授などを経て、13年より現職。人工知能学会理事、大阪大学招聘教授を兼務。博士(工学)。訳書に『群知能とデータマイニング』、『スモールワールド ネットワークの構造とダイナミクス』。

概要

 5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。今回は「人工知能」をテーマにした映画を取り上げながら、急速に進歩する人工知能(AI)がわれわれ人間の未来にどのような影響を与えるかを考えた。

 今回取り上げた作品は、日本では今春公開される『オートマタ』、2014年公開の『トランセンデンス』、同じく2014年公開で『her 世界でひとつの彼女』の3本。いずれも人工知能の進歩によって、人間の社会や日々の生活が大きく影響を受けている様子を描いている作品だ。

 2044年の未来を舞台に、人工知能と人類のサバイバルを賭けた戦いを描いたアントニオ・バンデラス主演の『オートマタ』は、人工知能ロボット「オートマタ」の製造時に、「人間への危害を加えないこと、ロボットを改造しないことの2条件をプログラムに組み込むことで、ロボットが自らを進化させ、やがては人間に歯向かうような事態は避けられるはずだった。そのおかげで、人工知能が人間の仕事の多くを代替するようになり、一見、人間とロボットの平和な共存が確立されているように見えた。

 しかし、自らを改造する能力を持ったロボットが出現し、物語はその改造主が誰かを突き止めていくというストーリーに沿って展開する。

 ロボットが人間にとって脅威とならないことを確実なものにするためには、ロボットのプログラムに組み込む2条件のセキュリティを、決して人間の力では破られないような強固なものにしなければならない。そのために人間はどうしてもロボットの力を借りる必要があった。そこに大きな落とし穴があった。

 『トランセンデンス』はジョニー・デップ演じる天才科学者が、自らの死に際して自身の脳内情報をコンピュータにアップロードし、コンピュータの中で生き続けるようになることで、数々の予期しない事態が展開されるというストーリー。コンピュータにアップロードされた天才の知能が、ネットワーク上のビッグデータと結びつくことで劇的な進化を遂げ、やがてそれは全知全能の神のような力を持つまでになる。人間よりも遥かに高度な知能を有する人工知能が、人間と合体して自らの意志を持ったとき、どのような事態が起こり得るのか。人間とは何かという根源的な問いを突きつける。

 一方、『her 世界でひとつの彼女』は人工知能を主題とする映画だが、そこにはロボットは登場しない。ホアキン・フェニックス演じる離婚協議中の主人公は、ふとしたことから対話型の人工知能オペレーションシステム(OS)と日常を共有し始める。リアルライフでの人間関係がうまくいかない中、当初、人工知能「サマンサ」は完璧な恋人に見えた。しかし、その恋愛がより真剣になるにつれて、数々の矛盾が噴き出し始める。この映画もまた、人間の根源的な価値と言っても過言ではない「愛」を、果たして人工知能が代替できるのかを問う。

 現在、人工知能の研究は第3のブームを迎えていると言われ、急速な進歩を見せている。今週も人工知能が囲碁のプロに初めて勝利したことが話題となった。チェスや将棋はすでに人工知能が人間を凌駕していたが、遥かに複雑な囲碁は人工知能では人間には勝てないとされてきたので、これでまた人工知能が一つ壁の超えた格好だ。

 しかし、今回の人工知能ブームには過去のそれとは大きな違いがある。それは研究開発が、巨額の研究開発費と豊富な人材を抱える資本力を持ったグーグルやフェースブックなど米のIT企業がその担い手となっている点だ。今回プロの囲碁棋士に初めて勝利した人工知能も、グーグルが買収したベンチャー企業が開発したものだった。

 電気通信大学大学院教授で人工知能の研究に携わる栗原聡氏は、今回の人工知能ブームのキーワードは「ビッグデータ」と「コンピュータのパワー」だという。人工知能の関する基本的な技術や理論は、第二のブームと言われた1990年代にほぼ出揃っていたという。しかし、人工知能が知識を集積し、「ディープ・ラーニング」という手法を通じてよりスマートになっていくためには、ビッグデータへのアクセスが必要で、更にそれを支える強力な処理能力が不可欠となる。それを持っているのが、グーグルなどの米IT企業だというわけだ。

 しかし、多くの映画に描かれているように、人類の未来に影響を及ぼす可能性の高い人工知能の技術が、一握りの私企業の手に握られることに問題はないのか。人工知能研究の世界は、倫理面での基準もまだ整備されているとは言い難い。ここまでのところ、いずれも人間の善意を前提にして研究開発は進められてきたが、それが今後も維持されるという保証はどこにもない。

 人工知能の進歩は人間の社会をどのように変えるのか。人間よりも優れたロボットの登場で、人間らしさの意味は変わるのか。人工知能をテーマに描かれた『オートマタ』、『トランセンデンス』、『her 世界でひとつの彼女』の他、『2001年宇宙の旅』、『Lucy』なども参照しつつ、ゲストの栗原聡氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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