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2024年01月24日公開

現行の法制度では国民は政治資金の流れを監視できない

ディスクロージャー ディスクロージャー (第16回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2024年04月24日23時59分
(終了しました)

概要

 パーティ裏金問題をめぐり、東京地検特捜部安倍派二階派岸田派の会計責任者を在宅または略式起訴し、安倍派の議員3人を起訴したが、懸案となっていた安倍派幹部7人の立件は見送られた。見送った理由について東京地検は、各派の会計責任者と政治家の共謀が立証できなかったと説明した。

 受け取った億単位の裏金が政治資金収支報告書に記載されないまま闇から闇へと消えたことが分かっているのに、その法的責任を問えないようでは、現行の政治資金規正法がザル法であることを自ら証明したようなものだ。

 現行の政治資金規正法が、「規制」ではなく「規正」となっているのは、同法の1条2条で謳われている通り、この法律が政治資金を制限する目的ではなく、それをガラス張りにすることで、「国民の不断の監視の下に置く」ことを目的としているからだ。しかし、現行の法律も制度も、「ガラス張り」とはほど遠い状態にある。

 国民から不断の監視を受けるためには、政治資金の収支が適切に報告されなければならないことは言うまでもないが、それだけではまったく不十分だ。報告された収支の内実を国民が容易に確認できるようになっていなければ、ガラス張りとは言えない。

 今回問題になっている政治資金収支報告書は、ほとんどがインターネット上で公表されており、ダウンロードすることもコピーすることもできる。かつては総務省の閲覧室で閲覧することしか認められていなかった頃に比べると、一見、情報公開が改善されているように見える。

 しかし、実際に公開されているデータはすべてPDF形式で、文字列で検索できるデータ形式にはなっていない。何万枚、何十万枚という紙の報告書をPDF化したものが、公開されているだけだ。これでは膨大な量の収支報告書を分析することはほぼ不可能だ。

 例えば、特定の政治家が毎年誰から幾らもらっているかを突き止めるだけでも、大変な労力が必要となる。その政治家が提出した収支報告書を一枚一枚手作業で手繰っていかなければならないからだ。しかも、多くの政治家は複数の政治団体を持っている場合が多く、それぞれの団体から収支報告書が提出されている。ある政治団体がどの政治家の政治団体なのかも、代表者名だけからは判別できない場合が多い。

 ましてや、寄付する側について、特定の企業や団体がどの政治家のどの政治団体にいくら寄付しているかを精査するためには、気の遠くなるような手作業が必要になり、事実上不可能だ。

 今回は記載漏れだの裏金だの派閥の弊害だのばかりに注目が集まっているが、そもそも現行制度の下では裏金はおろか、表金を国民の監視下に置くことすらできていないのだ。

 それでも政治資金収支報告書はまだましな方だ。選挙運動費用の収支報告書にいたっては、ウェブ上で公表されていないため、総務省に閲覧に行くか、もしくは情報公開請求をしなければコピーすら入手できない。また政党交付金の使途報告書はウェブ公表されているが、政党助成法に「閲覧」の規定しかないことから、わざわざダウンロードやコピーができない状態に加工して公表されている。これもまた、情報公開請求をしなければ、報告書そのものを入手できなくなっているのだ。閲覧室に閉じこもって、手書きで内容を書き写すのは現実的ではないが、公開請求も手間もかかるし手数料が発生する。

 端的に言えば、政治資金規正法の第一条で「国民の不断の監視」を謳っておきながら、実際の制度はできるだけ国民の監視が効かなくなるようなものになっているのだ。

 今回の政治とカネのスキャンダルは、神戸学院大学の上脇博之教授が、膨大な手間をかけてPDF形式の報告書を一枚一枚丹念に手繰ることで、各派閥の入りと出の金額の矛盾などを突き止めたことがきっかけとなっている。しかし、これだけあからさまな、しかも億単位の政治腐敗を明らかにするために、そこまで手間がかかるようになっていることが正当化できるわけがない。

 現在PDF化されている紙データの内容がすべてデジタルデータ化されれば、例えば政治家の名前から検索すれば、その政治家の関連政治団体が瞬時に画面に表示され、その政治家や政治団体が誰からいくら寄付を受けているかも一目瞭然となる。また、その寄付元が他にどの政治家に総額でどれだけの寄付をしているかも、立ち所に明らかになる。それが先進国では常識的な政治資金の情報公開であり、国民の不断の監視を可能にする唯一にしてもっとも手っ取り早い方法なのだ。

 情報公開分野の第一人者の三木由希子情報公開クリアリングハウス理事長は、政治資金収支報告書のデータ化の作業は行政機関にしかできないと指摘する。なぜならば、それを民間なりNPOなりがやろうとすると、日本では個人情報保護法により、名前が公開された個人からデータの削除を求められた場合、削除しなくてはならなくなるからだという。つまり、これは本来、総務省がやらなければならない仕事をさぼっているということだ。

 現行の政治資金規正法に基づく公開情報だけでは、収支報告の内容におかしな点や矛盾があったとしても誰もチェックができない。今回は上脇教授が矛盾点を指摘したが、丹念に見ていけば、無数の矛盾する収支報告がそのまま放置されている可能性が高いと三木氏は言う。収支報告の内容をチェックする仕組み自体が存在しないのだから、そうなるのは当たり前だ。

 これはザル法以前の問題であり、見ようによっては意図的にチェックができないような悪意を持った運用がなされている状態と言っていっていいだろう。 しかも、現行法の下では、誰かが大変な労力をかけて特定の政治家の報告書の矛盾点を指摘したとしても、違反としては形式犯扱いにしかならず、修正すれば済んでしまうという有様なのだ。

 現行の政治資金制度は、裏金以前にそもそも表金が国民の不断の監視を受けられる状態になっていないところに、まず最大の問題がある。裏金だの派閥解消だのといった議論のすり替えでごまかされてはならない。

 政治資金をめぐる情報公開の問題点について、三木氏とジャーナリストの神保哲生が議論した。

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