2020年3月21日
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安倍政権の下で無法地帯と化した霞ヶ関をどうするか

新藤宗幸氏(千葉大学名誉教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第989回(2020年3月21日)

 世界各国が新型コロナウイルス対策として国境閉鎖や外出禁止などの厳しい施策を打ち出す中、日本は政府による小・中・高等学校に対する休校要請の解除が検討されるなど、不思議なほどの安堵感に覆われている。実際、街中に人っ子一人いない、まるでゴーストタウンと化したニューヨークやパリの様子がテレビで映し出されているのと比べると、日本では往来を普通に人が歩いているし、朝のラッシュアワーの電車もそこそこ満員だ。

 テレビ、とりわけワイドショーなどでは相変わらず洪水のようにコロナ一辺倒の報道が続くが、当初コロナの情報洪水を前にパニック気味だった市民社会も、多少は煽られ慣れしてきたのか、あるいは、少なくとも政府が発表する感染者数が爆発的に増えていないせいなのか、ある程度平静を取り戻しつつあるように見える。地理的に中国に近いことから、今になって大慌てで対策を迫られている欧米諸国に先駆けていち早くパニックステージを卒業したということなのだろうか。

 無論、個人事業主を含め、今回の新型コロナウイルスの蔓延によって売り上げが大きく影響を受けている事業者が多くいることは論を俟たない。年度末を迎えるにあたり、経済的な影響はこれから正念場を迎えることになるだろう。

 しかし、一つ不安なことは、果たして今の日本のこの安堵感が、科学的なデータに裏付けられたものと言えるのかどうかが、今一つわからないことだ。3月下旬に入り多少は増えてきているものの、日本のPCR検査件数は他国と比べると圧倒的に少ない。日本で感染者数が爆発的に増えていないのが検査対象を厳しく絞っている結果に過ぎない怖れがあり、水面下で密かに感染が広がっている可能性は依然として排除できない。検査件数を増やした途端に感染者数が爆発的に増える可能性もあり、まだまだ予断は禁物だ。

 もっとも、コロナウイルス対策も含め、われわれが政府が打つさまざまな施策に対して不安を覚えるのは、ある意味では当然のことだ。なにせわれわれはここ何年かの間、政府の中核を成す霞ヶ関の官僚機構が完全に壊れてしまっている様を、繰り返し見せられてきたからだ。

 今週、公文書の改竄を強いられて自殺に追い込まれた近畿財務局赤木俊夫さんの遺書が公開されたが、森友問題では財務省によって森友学園と近畿財務局との交渉過程を綴った文書や決裁文書が、ことごとく安倍首相佐川宣寿理財局長(当時)の国会答弁と矛盾しないように書き換えられていたことが明らかになっているし、桜を見る会問題では、政府の予算で開催される会に、首相の個人後援会のメンバーを含め、首相サイドから要請のあった相手がそのまま内閣府の名前で招待されていたばかりか、それが問題化した途端に内閣府の官僚が招待リスト者リストをシュレッダーにかけてしまっている。また、政権の守護神よろしく、自民党や政権の中枢に司直の手が及ぶのを防いできたとされる黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題では、黒川氏を検事総長に就かせるためにこれまでの法律の解釈を勝手に変えたばかりか、それを「口頭決裁」で済ませたと法務大臣が堂々と国会で答弁している。今回の新型コロナウイルスでも、日本中が注目する厚労省の最初の記者会見に、なんと首相補佐官との「コネクティング・ルーム」旅行が国会で問題視されている厚労省の大坪寛子審議官が主役として登場し、周囲を唖然とさせている。

 霞ヶ関は一体どうなってしまったのか。

 行政法が専門の新藤宗幸・千葉大学名誉教授は、「政治改革」や「政治主導」「官邸主導」といった過去25年に及ぶ一連の「改革」によって、小選挙区制、政党助成金、省庁再編、首相の手足となる内閣府の膨脹、内閣人事局や日本版NSCの創設等々、首相官邸の権限が極大化されてきた結果、霞ヶ関官僚は官邸の意向には一切逆らえなくなっていることを指摘する。また、安倍政権という政権が国家主義的かつ新自由主義的な色彩を強く持つ政権であり、その志向に同調できない官僚は出世コースから外されるようになっているが故に、霞ヶ関官僚もその方向を向かざるを得なくなっているのだという。

 戦後の日本は戦前から続く強固な官僚制度がうまく機能し、世界にも類を見ないほどの復興と高度成長を果たした。しかし、先進国の仲間入りを果たして以降は、強すぎる官僚の「縦割れ行政」や「省益優先」、「天下り」、「特殊法人の乱立」などの弊害が目立つようになり、それが今日の官邸主導、政治主導への流れに繋がった。

 しかし、われわれが志向した政治主導、官邸主導とは、今霞ヶ関で起きているようなものだったのだろうか。政治家の過った判断や無責任な行動や発言に合わせるために、嘘の答弁や公文書の改竄も辞さない官僚ばかりが出世していくような政府をわれわれは望んでいたのだろうか。

 新藤氏は問題の根幹は、現行の公文書管理法情報公開法が機能していないとこにあるとして、まず公文書管理法が定める公文書の定義を、先進国並の厳しい水準にあげていくことが、現在の政治主導の下で霞ヶ関を正常に機能させるための最低条件になると指摘する。首相に強い権限を与える以上、それに見合ったチェック機能を担保する必要があり、チェックのためにはまず記録を残させることが必要不可欠だからだ。

 霞ヶ関の官僚機構が壊れたままでは、新型コロナウイルスのような非常時に政府が打ち出す施策に対して、われわれ市民社会は自信を持つことができない。ましてや、壊れた官僚機構に今回の新型コロナ特措法に含まれているような、私権が大幅に制限されるような権限を与えることには大きな不安を覚えるのは当然だ。

 われわれが民主的かつ市民のために働いてくれる政府を取り戻すためには、政治に対する投票行動も重要だが、それと同じくらい霞ヶ関の復興が不可欠だ。今、霞ヶ関がどのような状態に陥っているのか、どこに問題があり、そのために何がなされなければならないのかなどを、これまで官僚機構に対しても数々の貴重な提言を行ってきた新藤氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

 
千葉大学名誉教授
1946年神奈川県生まれ。中央大学経済学部卒業。72年中央大学大学院法学研究科修士課程修了。専門は行政学。専修大学法学部助教授、立教大学法学部教授、シェフィールド大学客員教授、千葉大学法経学部教授などを経て2011年より現職。著書に『官僚制と公文書 改竄、捏造、忖度の背景』、『原子力規制委員会』など。

 

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