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2019年3月23日
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アベノミクスとは結局何だったのか

9分20秒
明石順平氏(弁護士)
マル激トーク・オン・ディマンド 第937回(2019年3月23日)

 アベノミクスと呼ばれる経済政策の妥当性をめぐる経済学会界隈の議論は、人口の99.99%を占める経済学の門外漢であるわれわれにとって、今一つ釈然としないところがあった。

 アベノミクスに批判的な経済学者たちは、金融政策だけで経済成長を実現することなどあり得ないと指摘し、実際に効果があがっていないことがその証左と主張してきたが、もう一方でアベノミクスを支持する経済学者やエコノミストたちは、金融緩和が不十分だから成果があがらないのであって、その理論自体は間違っていないと主張し続けてきた。

 そして、そこから先の議論は経済の専門用語が飛び交う難解なものになりがちで、門外漢にとっては空中戦を見せられているような疎外感を禁じ得ないものだったのではないだろうか。

 ところがここにきて、まさに経済学の門外漢そのものといっていい、労働法制を専門とする一人の弁護士が、アベノミクスの矛盾点や欺瞞を素人にもわかる平板な言葉で指摘した本が話題を呼んでいる。

 弁護士の名前は明石順平氏。彼が2017年に著した「アベノミクスによろしく」がその著書の名前だ。

 明石氏は大学も法学部出身で、「経済の素人」を自任する。

 その明石氏がアベノミクスのカラクリを彼なりに分析してみた結果、経済学者の説明を待つまでもなく、これがまったくもって無理筋な政策であることがすぐに理解できたという。なぜ日本人の多くがこんなデタラメな政策に、いとも簡単に騙されてしまったのかと驚いたと、明石氏は語る。

 アベノミクスとは①大胆な金融緩和、②機動的な公共投資、③構造改革の3本の柱からなる安倍政権の旗印といってもいい経済政策だが、その最大の特徴は①の金融政策にある。景気が良くなると物価が上がるという理論に基づき、人為的に物価をあげれば景気がよくなるという仮説を立てた上で、大胆な金融緩和によって円安を引き起こすことで物価上昇を実現すれば、経済成長が実現できるというものだ。

 安倍政権と日銀が目指した前年比2%の物価上昇は6年経った今も終ぞ実現しなかったが、とはいえ実際には物価は確実に上昇してきた。例えば2013年から3年間だけでも物価は4.8%上昇し、そのうち2%分は消費税増税に起因するもの、2.8%は円安に起因するものだった。

 しかし、その間、景気は一向によくならなかった。GDPの6割を占める消費が、まったく上向かなかったからだ。

 その理由は簡単だと、明石氏は言う。賃金が上がらなかったからだ。

 アベノミクスのデタラメさは、名目賃金から物価上昇分を割り引いた実質賃金が、安倍政権発足後コンスタントに下がっていることにさえ気づけば、誰にもわかることだった。「なぜ誰もそれを指摘しなかったのか不思議でならない」と明石氏は言う。

 実際、実質賃金が下がり続けた結果、経済の大黒柱である民間の消費支出も下がり続けた。その間、支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は上昇の一途を辿った。アベノミクスによって国民生活は苦しくなる一方だったことが、難しい計算などしなくても、ネット上から入手が可能な公表データだけで簡単に明らかになっていたのだ。

 しかも、アベノミクスには、最近になって露呈した統計偽装を彷彿とさせる巧妙なカラクリが、いくつも仕込まれていたと明石氏は言う。

 例えば、政府統計では安倍政権発足後、日本のGDPは着実に上昇していることになっている。しかし、実際は2016年末に政府は、「国際基準に準拠する」という理由でGDPの算定方法を変更し、その際に過去のGDPを1994年まで遡って計算し直していた。その結果、どういうわけか安倍政権発足後のGDP値だけが大きく上方修正されるという不可解な修正が行われていたというのだ。

 もともと「2008SNA」というGDPを算出する国際的な新基準は、これまでGDPに算入されていなかった研究開発費をGDPに含めるというもので、結果的に各年度のGDP値は概ね20兆円ほど上昇する効果を持つ。しかし、2016年に安倍政権が行った再計算では、これとは別に「その他」という項目が新たに加えられており、「その他」だけで安倍政権発足後、毎年5~6兆円のGDPが「かさ上げ」されていたと明石氏は指摘する。しかも、出版社を通じて「その他」の内訳の公表を内閣府に求めたところ、「様々な項目があり、内訳はない」という回答が返ってきたというのだ。「その他」項目では、安倍政権発足前が毎年3~4兆円程度下方修正され、安倍政権発足後は毎年5~6兆円上方修正されていたことから、安倍政権発足以降のGDPのかさ上げ額は平均で10兆円にものぼると明石氏は指摘する。

 もう一つの重要なカラクリは、アベノミクスが一般国民、特に自ら事業を営んでいるわけではない給与所得者や一般の国民が景気を推し量る指標となっている株価と為替レートについて、「恐らく意図的に」(明石氏)、見栄えを良くする施策を実施してきたことだ。経済は複雑で多くの国民が日々、経済ニュースを追いかけているわけではないが、どういうわけか円・ドルの為替レートと日経平均株価だけは、NHKの5分ニュースでも毎日必ずといっていいほど、しかも一日に何度も報じられる。多くの国民がこの2つの指標を、世の中の景気を推し量る目安にしてしまうのは無理もないところだろう。

 ところが安倍政権の下では、この2つの指標が公的な強い力によって買い支えられ、つり上げられてきた。日銀はETF(指数連動型上場投資信託受益権)の買い入れ額を大幅に増やしてきたし、年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は国内株式への投資割合を安倍政権発足後、倍以上に増額している。ETFとかGPIFとか言ってもよくわからないが、要するに日銀や政府の公的機関が、数兆円単位で東京市場の株価を買い支えてきたということだ。

 先述の通り、為替については、かつてみたこともないような大規模な金融緩和による円安誘導が続いている。

 われわれは日々のニュースで、為替は1ドル110円以上の円安が、日経平均は史上最高値の更新が日々、続いていることを耳にタコができるほど聞かされているわけだ。(なぜ日本人の多くが、円安が日本経済の好ましい指標と考えるかについては謎の部分も多いが、迷信も含めてそのような先入観があることは事実だろう。)

 明石氏はそこに、一般国民にわかりやすい経済指標だけはしっかりと手当をする安倍政権の政治的意図があったのではないかと推察する。

 実際、2012年12月の選挙でアベノミクスを旗印に選挙に勝利して政権を奪還した安倍政権は、それ以来6回の国政選挙のすべてで、「アベノミクスの信を問う」ことで、ことごとく勝利を収めてきた。そしてその間、安倍政権は特定秘密保護法や安保法制、共謀罪等々、過去のどの政権もが成し遂げられなかった大きな政策をことごとく実現してきた。しかし、実際の選挙ではそうした重要な社会政策は常にアベノミクスの後ろに隠されてきた。過去6年にわたり日本の政治はアベノミクスという呪文に騙されてきた結果が、戦後の日本のあり方を根幹から変える一連の重要な政策という形でわれわれに跳ね返ってきているのだ。

 また、無理筋な経済政策で幻想を振りまいてきたアベノミクスの副作用や後遺症も、次第に深刻の度合いを増している。そろそろわれわれも目を覚まさないと、未来に大きな禍根を残すことになりかねないのではないか。

 国民生活に直結する選挙の争点は難解な経済論争に惑わされず、常識で判断することの重要さを説く明石氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が、アベノミクスの虚像と実像について専門用語を一切抜きで議論した。

 
明石 順平(あかし じゅんぺい)
弁護士
1984年和歌山県生まれ。2007年東京都立大法学部卒業。09年法政大学法科大学院卒業。10年弁護士登録。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に『アベノミクスによろしく』、『データが語る日本財政の未来』。

 

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