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2019年2月2日
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ゴーン逮捕とJOC贈賄疑惑とファーウェイCFO逮捕の接点

北島純氏(経営倫理実践研究センター主任研究員)
マル激トーク・オン・ディマンド 第930回(2019年2月2日)

 昨年11月19日に日産のゴーン会長が逮捕され、長期の勾留に対してフランス政府が懸念を表明する中、今後はフランスの当局が12月10日に2020年の東京五輪招致を巡る贈収賄疑惑で、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長を事情聴取していたことが明らかになった。既に予審判事が、贈賄の疑いで竹田会長に対する捜査に着手しているという。

 その一方で、米政府の意向を受けたカナダの検察が、中国の通信機器大手ファーウェイの孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)を1月3日に逮捕すると、今度は中国当局が相次いで13人のカナダ人を拘束。1月14日には中国の裁判所が一審で懲役15年の判決を受けていたカナダ人男性に対して控訴審で死刑を言い渡すなど、一見、報復合戦とも思えるような司法権力を使った国家間の衝突が激化している。

 確かに司法権力は国家にとっては軍隊に次ぐ「実力組織」であり「暴力装置」でもある。軍隊を使った戦争の代わりに、司法権を使って競争に勝とうとするのが、グローバル化時代の覇権と経済利権をめぐる新しい戦いの形なのだろうか。

 外国公務員の贈賄罪に詳しい経営倫理実践研究センター主任研究員の北島純氏は、東京五輪の招致委員会の贈賄疑惑に対する捜査自体は2016年から始まっているものなので、今回の竹田JOC会長に対する捜査がそのような政治的な意図を持った報復と考えるのは無理があると指摘する。また、東京五輪の招致委員会が五輪招致を勝ち取るために、シンガポールのコンサルタントを通じてIOCの理事やその親族に賄賂を支払ったとする疑惑自体が、もともとはロシアのドーピング問題に対する調査報告に端を発するものだったことから、そこに日本に対する何らかの政治的な意図があったとは考えにくいというのが、北島氏の見立てだ。

 ロシアのドーピング疑惑を調査した報告書には、ロシアによる政府ぐるみのドーピングの実態が露わにする一方で、ドーピングのもみ消しの嫌疑を掛けられたトルコが、2020年の五輪を招致するために必要とされる400万~500万ドルの賄賂を払わなかったためにイスタンブールへの五輪招致に失敗した一方で、東京はそれを払ったために招致に成功したとの記載が含まれていた。それが今回のフランス当局による捜査の発端となったことは間違いないようだ。

 日本では贈収賄罪はもっぱら公務員や政治家だけが対象だが、フランスでは民間同士の取り引きでも賄賂が罪になる。実はアメリカやイギリスを始めとする一部の先進国では近年、民間同士の取り引きにも贈収賄を禁じる法律が作られ始めているそうだ。五輪やFIFAの委員は公務員ではないが、それを買収する行為は高潔さをウリにするスポーツの根幹を毀損するというのが、その理由だと北島氏は言う。また、民民取り引きであっても、市場の公正さを損ねる行為を罰することには一定の合理性があるとも言える。

 東京五輪の招致委員会が、2020年の五輪を東京に招致するためにIOCの理事に賄賂を渡す行為は、仮にそれが賄賂性を持ったものだったとしても日本では罪にはならないが、フランスでは罪になる。今回、贈賄の嫌疑をかけられ、IOCの委員に強い影響力を持つとされるセネガル人で国際陸連のラミン・ディアク前会長が、パリを本拠に活動をしていることが、フランスがこの事件の管轄権を主張できる根拠になっているという。

 今回、竹田会長にかけられている疑惑では、招致委員会がシンガポールのコンサルタントにコンサルタント料の名目で支払った2億3000万円が、その後、IOCの委員やその親族を買収するための賄賂として使われたのではないかというもの。日本側が「コンサルティング料が賄賂として使われる認識はなかった」というだけの説明で罪を免れられるかどうかは微妙なところかもしれない。ただし、シンガポールのコンサルタントが、ロシアのドーピングもみ消しに関与していたことが明らかになったのは、日本がコンサルティング契約を結んだ後のことなので、日本の招致委員会が賄賂となる可能性を予見していなかったとしても、時系列的には不思議ではない。

 そんな理由から、今回のゴーン元会長に対する逮捕と竹田会長に対する捜査の着手を結びつける根拠には乏しいようだが、とは言え不自然な点が多いのも事実だ。例えば、ゴーン会長に対する逮捕の容疑にしても、7年も前から行われていた行為をなぜ今になって急に逮捕に至ったのかなど、不可解な点は多い。

 日産の43%の株を支配するルノーの筆頭株主はフランス政府だ。経済的に苦境に陥っているフランスが、日産の株を買い増すことで日産を子会社化し、より自国の経済にメリットをもたらすために利用しようとしたとしても、それほど不思議な話ではない。その一方で、日産にとってもまた日本政府にとっても、年間売り上げにして約11兆円、グループ全体で約14万人に雇用を提供している日産を他国に奪われることは、是が非でも避けなければならない。日産の社内に蔓延するゴーンのワンマン体制やルノーとの不平等な取り引き関係に対する不満と、日産の国外流出を避けたい政府の意向が、ルノーによる植民地支配のシンボルだったゴーン氏の排除で一致した結果が、日産による内部告発であり、恐らく政府も承認している日産と検察の司法取引という形で結実した可能性が高いのではないか。

 他方、もしそのような政治的な意図が一切無ければ、有価証券報告書の虚偽記載疑惑だの自らの投資損失の穴埋め目的でサウジアラビア人ビジネスマンに対する不正支出した疑惑だのといった十分に争う余地がありそうな微妙な罪で、世界の自動車産業界の大物で国際的にも著名なゴーン氏をいきなり日本の検察が逮捕して勾留し続けるというのは、少々無理筋のように思える。

 特に日本は昨年6月から司法取引が可能になり、検察の裁量が大幅に拡大している。北島氏は司法取引によって「コンプライアンス・クーデター」が容易になったと指摘するが、どんな企業でも、あるいは個人でも、大なり小なりコンプライアンス上不都合なことの一つや二つはあるだろう。特定の企業や個人を狙い撃ちにして、その側近に司法取引を持ちかけて標的についての不利な証言を引き出せば、もはや日本には検察が逮捕できない相手などいないのではないかとさえ思える。仮に何年後かに裁判で無罪になったとしても、ゴーン氏の例にも見られるように、特捜部に逮捕され長期にわたり勾留された時点で、政治的、経済的、社会的にはすべてを失う。裁判の結果など後の祭だ。そもそも相手を失脚させること自体が目的だったとすれば、それで十二分に事足りることになる。

 実はファーウェイの孟晩舟CFOの逮捕も、当初はイランに対する制裁違反という重大な嫌疑が取り沙汰されていたが、最終的には今回の起訴では取引銀行のHSBCにイランとの取り引きについて虚偽の情報を提供したという金融詐欺や資金洗浄、司法妨害にとどまっている。起訴内容に肝心の対イラン制裁違反は含まれていないのだ。ファーウェイが次世代の通信ネットワーク5Gを巡る米中の覇権争いの犠牲になったという見立てが正しいかどうかはさておき、この逮捕・起訴にも何らかの政治的な意図の介在があったと見るのが妥当だろうと北島氏は語る。

 グローバル化が進むところまで進んだ今、やや遅れながら、国の司法権が国外にまで及ぶことが当たり前になる時代が到来する気配だ。既にほとんどの国が、外国の公務員に対する賄賂を違法化する法制度を整備している。実は日本の司法取引第一号はタイの火力発電所検察を巡りMHPS(三菱日立パワーシステムズ)の社員がタイの港湾当局者に賄賂を渡したことをめぐり、MHPSが検察と司法取引をして自らの罪を不問に伏してもらうことの引き換えに3人の社員を差し出すという、外国公務員に対する贈賄の罪だった。ちなみにゴーン氏逮捕は司法取引の2例目だ。

 今回の東京五輪招致委に対する贈賄の嫌疑は、それがいよいよ民民取り引きにまで及ぶ先駆けとなるかどうかが注目される点だが、その事件も、また他の事件を見ても、どうもその背後には高潔や公正さの維持のためというよりも、国と国の国益をめぐるエゴのぶつかり合いが先行しているように見えるところが気になる。

 世界は国家間の司法権力がぶつかり合う時代に突入したのか。そうした中にあって、日本で導入された司法取引やフランスや米英で導入されている民民取り引きにまで贈収賄の枠を拡げるような、より大きな裁量を捜査当局に持たせることにリスクはないのかなどについて、外国公務員の贈賄罪に詳しい北島氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

 
北島 純(きたじま じゅん)
一般社団法人経営倫理実践研究センター主任研究員
1971年東京都出身。東京大学法学部卒業。九州大学大学院実務法学専攻修了。内閣官房長官秘書、文科大臣秘書等を経て、2013年より現職。専門は外国公務員贈賄罪。公認不正検査士(CFE)。著書に『解説 外国公務員贈賄罪―立法の経緯から実務対応まで』。

 

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