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2019年01月19日公開

フェイクニュースにはファクトチェックで太刀打ちする

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第928回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

NPO法人ファクトチェック・イニシアチブ事務局長・弁護士

1980年大阪府生まれ。2002年慶應義塾大学総合政策学部卒業。07年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。02年産業経済新聞社入社。埼玉総局を経て03年退職。08年弁護士登録。12年より一般社団法人日本報道検証機構の代表理事を兼務。17年よりNPO法人ファクトチェック・イニシアチブ事務局長を兼務。共著に『ファクトチェックとは何か』。

概要

 厚生労働省の毎月勤労統計調査に法律で定められた方法とは異なる「手抜き」があり、日本人の賃金が実際よりも低い数値が公表されていたことがわかった。一次データが不正確だったということになると、それを元に算出したGDPなどの二次統計も間違っていたことになる。日本の国際的な信頼の低下が避けられない深刻な事態だ。

 しかし、よくよく考えてみれば、このようなデタラメがまかり通るのも無理はないところがある。これは日本に限ったことではないが、政府のトップや大臣が自分たちに都合のいいデータだけを恣意的に出したり、時には平然とフェイクニュースを吹聴している国で、同じ政府が発表する末端の調査データには全幅の信頼が置けるほどの精度を期待するのは、元々無理があったのかもしれない。アクトン卿の言葉を借りるまでもなく、権力は頂点から腐っていく。それにしてもフェイクニュースの蔓延が問題となる中で、政府の一次情報までがフェイクだったとは。

 昨今よく耳にするようになった「フェイクニュース」という言葉は、元々は広告収入を得る目的で作られた、一見ニュースサイトに見えるようなサイトやそこに掲載された偽情報のことを意味していたが、2016年の米大統領選挙でクリントン候補に対する無数の虚偽情報がSNSで拡散されたのを機に、政治的な目的で発信される虚偽情報もフェイクニュースと呼ばれるようになった。そして、2017年のトランプ政権誕生後、トランプ大統領が事あるごとにニューヨーク・タイムズやCNNなど自らに批判的なメディア報道を「あんなものはフェイクニュースだ!」として一蹴するようになったことで、今日、フェイクニュースはネット上に溢れる虚偽情報全般を意味する言葉になっている。その中には従来の広告目的の意図的な偽情報もあるが、政治的な意図のあるものや単なる勘違い、デマや陰謀論の類いまでが幅広く含まれる。

 フェイクニュースが蔓延する原因は、インターネットの普及でかつて一握りのマスメディアが独占していた伝送路が開放され、誰もが発信できるようになったことが大きいことは言うまでもない。しかし、ここに来て偽情報がSNSによって拡散されることで、情報の内容次第ではかつてのマスメディア以上に大きな影響を社会に与えるようになっている。

 厚労省の一次データが不正確だったことで、他の膨大なデータまでが影響を受ける可能性があるのと同様に、事実関係が歪められたり捏造されたフェイクニュースが蔓延したまま放置されれば、あらゆる政治的対話が成り立たなくなる。意味のある議論は事実関係に対する認識が共有されていることが前提になるからだ。

 しかし、言論の自由が保障された民主主義の国で、フェイクニュースの拡散を止めることは容易ではない。罰則を強化したとしても、大抵の場合、フェイクニュースの最初の発信者はネットの匿名のフェイクアカウントから情報を発信されている。拡散が始まったのを確認した上でアカウントを削除して逃げてしまうことが可能だ。

 そうした中で、フェイクニュースに真正面から対峙する試みが、広がりを見せ始めている。それが「ファクトチェック」と呼ばれるものだ。

 ファクトチェックは、公開された情報のうち、客観的に検証が可能な情報の事実関係を第三者が確認し、その結果を発表するというもの。チェックの対象に意見や論評、論説は含まれない。あくまで事実関係のみがファクトチェックの対象となる。また、チェックをする者も、自らの政治信条や党派性を持ち込まないのが原則だ。

 数年前から、NPOやネットメディアなどが独自にファクトチェックを始めていたが、2017年に「ファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)」というNPO法人が設立され、賛同するネットメディアや個人の協力の下、国際的に確立されたガイドラインに基づくファクトチェックが行われるようになった。

 最近では昨年9月に実施された沖縄県知事選挙で、当選した玉城デニー候補を中傷する組織的とも思えるフェイクニュースが拡散されたのを受け、ファクトチェック・イニシアチブの協力者たちが情報の真偽を確認してその結果を公表している。その結果、現職の国会議員までがツイッターでフェイクニュースの拡散に手を貸していたこともわかった。当選後の記者会見で玉城氏は「自分に関してネット上で拡散された情報の9割はフェイクニュースだった」と語っている。

 また、数的には玉城候補を中傷するフェイクニュースが大半を占める一方で、安室奈美恵さんが玉城氏への支持を表明したというフェイクニュースを玉城候補の支持者が発信していたというようなケースもあったという。

 ファクトチェック・イニシアチブの事務局長を務める楊井人文弁護士は、フェイクニュースの氾濫を野放しにしておけば、言論の自由に制限を加える口実を政府に与えてしまう恐れがあるとして、ファクトチェックの重要性を強調する。フェイクニュースの負の影響が制御不能なほど大きくなれば、言論の自由に対する多少の制限はやむを得ないと考える人が増えてくることは十分にあり得るだろう。

 そのような事態を避けるためにも、ようやく日本でもファクトチェックの組織的な動きが出てきたことになる。ただ、一定のガイドラインに基づいて市民が情報の真偽を確認しその結果を公表するファクトチェック・イニシアチブのような動きは、かなり前から世界規模で始まっており、日本はむしろ後発だと楊井氏は指摘する。

 インターネットとSNSの普及によって、新たな社会問題として浮上したフェイクニュースについては、技術の進歩に解決を期待する向きも多い。また、市民ひとりひとりのネットリテラシーが向上してくることで、真偽や出所が不明の情報を無責任に拡散させない習慣が根付いてくることも必要だろう。しかし、無数に流れてくる情報の真偽を一市民が瞬時に判断するのは容易なことではない。ファクトチェックが広がってくれば、一般の市民が今よりも容易に情報の真偽を確認することが可能になるはずだ。

 今週はファクトチェック運動の旗振り役として活動してきた楊井氏と、なぜ今ファクトチェックが必要なのか、ファクトチェックを通じて見えてきたフェイクニュースの特徴や背景とは何かなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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