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2018年10月27日公開

カショギ殺害事件に投影された中東政治力学の変動と歴史の終わり

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第916回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

福岡県生まれ。74年大阪外国語大学外国語学部卒業。76年米コロンビア大学大学院修士課程修了。学習院大学非常勤講師、クウェート大学客員研究員などを経て、2008年より放送大学教授。18年より現職。著書に『中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌』、『イスラム国の野望』など。

著書

概要

 現在の世界地図の原型が形成された第一次世界大戦の終戦からちょうど100年目に当たる今年、中東を発火点として新しい世界史が始まりそうな予感を感じさせる事態が起きている。

 直接のきっかけは、トルコを拠点に政府批判を展開していたサウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が、婚姻届を出すために訪れたイスタンブール市内のサウジアラビア総領事館内でサウジアラビア政府関係者の手で殺害されたことだった。

 確かにカショギ氏は祖父がサウジアラビア初代国王アブドルアジーズ・イブン・サウードの侍医を務めるほどの、サウジアラビアでは有数の有力者の一族ではある。しかし、カショギ氏の殺害自体が、第一次世界大戦の発端となったセルビア皇太子の暗殺に匹敵するような大きな歴史的な意味を持っているわけではない。むしろこの事件は、現在、サウジアラビアの実権を握り、女性に自動車の運転を認めたり、新しいビジネスの誘致を推進するなど改革派のイメージで売り出し中だったムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子が、自分に刃向かう者はジャーナリストであろうが何であろうが、暗殺チームを海外にまで派遣して有無も言わせずに殺害することを厭わない、前時代的な人権感覚しか持ち合わせていない粗野な人物であり、そのような人物がサウジアラビアという国家の実権を握っているという事実が満天下に晒されたことに大きな意味がある。

 実際、生産量・埋蔵量ともに世界有数の石油資源国であるサウジアラビアは、オイルマネーにものを言わせながら、世界で一定の存在感を獲得してきた。しかし、その実は収入の8割をオイルマネーに依存したまま、産業の振興も文化の発展もほとんど実現できていない二等国に過ぎない。輸入原油の4割をサウジアラビアに依存している日本では、サウジアラビアがアラブの盟主のように扱われることが多いが、トルコの情報当局が小出しにリークしてくるカショギ氏殺害の情報戦に無為無策のまま翻弄されるサウジアラビアの姿は、明らかにアラブの盟主とはほど遠いものだった。

 第一次世界大戦でオスマン帝国が滅んだ後、中東の主導権を握ったイギリスとアメリカは、最初はイラン、そしてその次はイラクと、自己都合で中東の警察官役を選び、その後ろ盾となることで、中東の石油利権を守ってきた。イランが1979年の「反米」イスラム原理主義革命で反米に転じたとみると、イラクのサダム・フセインに入れ込むことでイランを牽制し、そのフセインがクウェートに侵攻するなどしてアメリカの言うことを聞かなくなると、今度はイラクを攻めて親米政権の樹立を試みるなど、あり得ないほど身勝手な外交政策を展開し続けた。

 オバマはイスラム原理主義革命以来、関係が悪化していた中東の大国イランと和解し、イランが核開発を放棄することの引き換えに経済制裁を解除する核合意を締結した。イスラム教シーア派が圧倒的多数を占めるイランとアメリカの最接近に焦りを感じたスンニ派主導のサウジアラビアは、近年、アメリカからの武器輸入額を倍増させるなど、アメリカとの同盟関係の維持に躍起になっていた。

 一方で、今回、カショギ氏の動向はもとよりサウジアラビア領事館を完全に監視下に置き、早い段階からカショギ氏殺害の事実を掴んだ上で、情報戦でサウジを翻弄し続けたトルコは、オスマン帝国の正統な継承者に名乗りをあげたといっても過言ではないほど、高度な外交力を見せつけた。2016年のクーデター未遂に関与した容疑者をアメリカが引き渡さないことの報復として、アメリカ人牧師を拘束するなど、アメリカとの関係が悪化していたトルコにとって、この事件でサウジアラビアの信頼を失墜させると同時に、アメリカとの関係改善を図れれば、一石二鳥ということになる。

 中東に詳しい国際政治学者の高橋和夫・放送大学名誉教授は、カショギ氏の殺害がこれだけ大きく報じられた事で、サウジアラビアの他の悪行が注目され、サウジアラビアの国際社会における地位が更に低下する可能性があると指摘する。他の悪行にはイエメンへの軍事介入や国内の人権弾圧などが含まれる。

 高橋氏は、長期的にはサウジアラビアが現在のような王政を維持できなくなる可能性が高いと指摘する。サウジアラビアの王政が倒れれば、それを後ろ盾としているバーレーンやアラブ首長国連邦など周辺の王国も崩壊するのは必至だ。

 ところが、第一次大戦から100年が経ち、戦勝国のイギリスやアメリカがご都合主義的に支えてきた中東の王政が終わりに近づいた今、もう一方の西側諸国では、民主主義が崩壊の縁にある。ロシアは形式的には民主的な選挙を実施しているが、政権に逆らうビジネスマンやジャーナリストは当たり前のように殺害されたり失脚させられている。中国は未だに共産党の一党独裁だ。そして、肝心のアメリカでは、トランプ大統領が民主主義を否定するような発言や行動を繰り返している。

 カショギ氏の殺害を機に露わになった中東の政治力学の変化と、100年前と比べた時、明らかに民主主義が衰退している世界の現状と今後について、高橋氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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