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2015年04月04日公開

食品表示の規制緩和に惑わされるな

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第730回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1949年長野県生まれ。72年日本女子大学家政学部食物学科卒業。78年同大学大学院家政学研究科修士課程修了。82年東北大学大学院農学研究科博士課程修了。群馬大学助教授、同大学教授を歴任。2014年同大学定年退職後、食品をめぐる情報などを研究する「食べ物情報研究所」設立、代表に就任。群馬大学名誉教授。農学博士。著書に『「食べもの情報」ウソ・ホント』、『フードファディズム:メディアに惑わされない食生活』など。

著書

概要

 この4月1日から食品表示に対する規制が大きく緩和される。
 これまで特定の食品について、例えば「このみかんは花粉症の目や鼻に効きます」や「このお茶は疲れを取ります」のような形で、それが体にどのような好ましい効果をもたらすかを具体的に表示することは認められていなかった。科学的根拠の乏しい表示で、消費者に過度な期待を与えたり消費者の判断を惑わすべきではないと、考えられてきたからだ。
 厳密に言えば現行の制度でも、厚生労働省から「トクホ」(特定保健用食品)の認定を受ければ、ある程度までは食品の効果を謳うことは認められていた。しかし、トクホの認定を受けるためには人間を対象とした臨床実験による効果を証明しなければならないなどハードルが高く、認定までに最低でも2年はかかると言われていた。
 健康食品などで、それが一体何に効くのかわからないようなテレビコマーシャルを目にした人も多いはずだが、トクホの認定を受けていなければ、食品の健康効果を謳うことは基本的に禁止されていた。
 それがこの4月1日からは一定の条件を満たせば、食品メーカー自身が独自に実験を行わなくても、それを裏付ける第三者の論文を添付するだけで、食品の機能を表示することが認められるようになった。
 これは食品の「機能性表示」と呼ばれるもので、2年前に安倍首相がアベノミクスの規制緩和の一環として発表し、この4月の食品表示法の施行に合わせて導入されることになった。本来、食品の表示制度は消費者を保護するためにあるものだが、今回の規制緩和は安倍首相自ら認めるように、主にその経済的効果を狙ったものだ。
 新たに導入される機能性表示制度では、食品メーカーや販売業者などが自らの責任において、食品の機能性を科学的に担保すれば、「○×に効く」「Δ□を緩和する」というような形で、期待される効果を食品のパッケージなどに表示することが可能になる。トクホでは必要とされる独自の臨床試験を行わずに、学術誌などで発表された第三者の論文を転用することができるため、安倍首相が言うように、これまで独自の試験を行うだけの財力のない中小企業にとっては、新たなビジネスチャンスが広がる可能性があると考えられている。
 ただし、「食品メーカーや販売業者などが自らの責任において」とあるように、トクホのような認可制ではなく届け出制となっているこの制度の下では、政府は科学的根拠の有効性については評価を下さないことになっている。つまり、食品メーカーとしては自分が売り出したい商品に含まれる成分について、特定の機能を裏付けてくれる論文を見つけてきて、それを添付して届け出れば、それだけでほぼ自動的にこれまで許されていなかった効能を表示することができるようになる。そして、政府はその表示については責任を負わないという、事実上、食品表示に対する政府の責任を免除する制度なのだ。
 日本にはこれまでも「健康食品」の類が氾濫しているが、それぞれの機能や効能については科学的根拠が乏しいものも多く、また中には過剰に摂取したり、高齢者や既往症のある人が摂取することで重大な健康被害をもたらす恐れのあるものも多く出回っているのが実情だ。消費者庁の消費者事故情報データバンクシステムには、健康食品による健康被害が毎年500件から700件前後報告されている。
 健康食品については、既に現行の表示制度の下でも多くの事故が報告されている中で、機能性表示が解禁になれば、それを真に受けて、新たに健康食品を積極的に利用するようになる人や、より大きな効果を期待して過剰摂取してしまう人が増えることは必至だ。事業者側から見れば、正にそれが新たなビジネスチャンスということになるのだろうが、消費者に「機能性表示」の意味を理解させる努力が明らかに不足している。
 栄養学が専門で食品問題に詳しい群馬大学名誉教授の高橋久仁子氏は、厳しいとされるトクホの認定を受けている食品でさえ、その効果は非常に乏しいものが多いが、消費者はトクホだというだけで盲目的に効能を信じている人が多い状況に警鐘を鳴らす。
 日本に「フードファディズム」の概念を紹介したことで知られる高橋氏によると、トクホ認定の前提となった痩せるお茶などで、その根拠となった論文を取り寄せてみたところ、ほとんど効果がなかったり、ごく僅かな効果を針小棒大な表現で喧伝しているものが少なくなかったという。トクホでもそのような状況の下で、よりハードルが低い機能性表示が解禁されればどうなるかは想像に難くない。
 高橋氏は消費者の自覚に対しても厳しい見方を示す。元来「サプリメント」の意味は「補完」であり、その健康食品を摂ればそれだけで健康が促進されたり症状が緩和されるわけではないと理解されるべきものだ。しかし、メーカー側が「暗示やほのめかし」によって僅かな効果を誇張し、消費者が「それを飲んでいるから大丈夫」とばかりにその「機能性幻想」に依存してしまうことで、本来健康の促進や維持に必要な運動や食生活における節制などを怠るような結果になっているとすれば、まったく本末転倒である。
 われわれ消費者が健康食品に対する機能性幻想を捨てない限り、「暗示やほのめかし」に踊らされ続けることは避けられないだろうと、高橋氏は言う。
 安倍首相の肝入りで始まった機能性表示食品制度とはどういうものなのか。それがわれわれの消費生活にどのような影響を与えるのか。新たな制度の導入に際して、われわれ消費者が考えておかなければならないことは何なのかなどについて、ゲストの高橋久仁子氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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