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2012年08月18日公開

ACTAの次はTPP・ここまできている「ネットの自由」をめぐる攻防

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第592回)

完全版視聴について

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ゲスト

1965年熊本県生まれ。91年東京大学法学部卒業。93年弁護士登録、98年コロンビア大学法学修士課程修了。99年ニューヨーク州弁護士資格取得。東京永和法律事務所、シンガポール国立大学リサーチスカラー、内藤・清水法律事務所(現青山総合法律事務所)パートナーなどを経て2003年骨董通り法律事務所を設立、同代表パートナーに就任。10年より日本大学芸術学部客員教授を兼務。著者に『著作権の世紀』、近著に『『ネットの自由』vs.著作権』など。

著書

概要

 ロンドン五輪で日本人選手の健闘に国中が沸き上がるさなかの8月3日、国会の参院ではACTA(Anti-Counterfeiting Trade Agreement=「偽造品の取引の防止に関する協定」)と呼ばれる国際条約の批准法案が、ほとんど審議もないまま、賛成217、反対9の大差で、静かに可決されていた。翌日の報道も新聞はせいぜいベタ記事扱い、テレビではそのようなことがあったという事実すらほとんど報じられることがなかった。衆院が可決すれば日本は世界で最初のACTA批准国となる。

 日本とは対照的に、これに先立つ7月4日、欧州議会はこの条約を478対39の大差で否決していた。欧州では今年に入って各地で大規模な抗議デモが起きていたことに加え、ACTAに反対する250万人の署名がEU議会に提出されるなど、ACTAは欧州全体を揺るがすほどの大問題となっていた。

 一方、ACTAに積極的なアメリカでは、ネットの自由に敏感な市民の反対が根強いと見たオバマ政権が、「これは条約ではなく協定なので議会の批准は必要ない」などという特異な見解を示し、法的手続きを無視してまで無理矢理ACTAの実現を図ろうしている。

 日本が五輪のドサクサに紛れて国会を通し、市民からの大反対を受けたEUがこれを否決し、民主的プロセスをすっ飛ばしてまでアメリカが実現しようとしているACTAとは一体何なのか。

 ACTAとは著作権や商標権の侵害に対処するための国際的な枠組みや協力関係の構築を目的とした国際協定のことで、2005年のグレンイーグルズ・サミットで当時の小泉首相が提唱したことに端を発する。既に日、米、豪など9ヶ国が署名を済ませ、それぞれ議会の批准を待つ。6ヶ国が批准をすれば発効することになる。

 ACTAは基本的には模造品や偽造品を取り締まる国際的な仕組みを作ろうというものだが、ネット上の海賊版や著作権侵害もその対象に含まれることから、当初から人権団体やネットユーザーたちの間ではインターネット上の言論の自由を縛る危険性が懸念されていた。実際、ウィキリークスによって公表された当初の条文案にはユーザーのネット回線を強制的に切断する権限をプロバイダーに与える案や、国境警察によるパソコンやiPod内のファイル検閲を認めるものなど、プライバシーやネットの自由を無視したものが多く含まれていたという。また、著作権法違反を著作権者の告発がなくても警察が勝手に取り締まることができる非親告罪とする案や、著作権侵害の損害賠償額を飛躍的に増大させる法定賠償金制度の導入も、繰り返し議論されてきたという。

 著作権法に詳しい弁護士の福井健策氏は、表現の自由の制約に直接つながるような条文の多くが、条約の最終案からは削除されているが、依然として曖昧で難解な表現が多いほか、著作権法違反に刑事罰の導入を求めるなど、既存の著作権の枠組みやネットの自由からは一線を越える内容を多く含んでいることを指摘する。
 しかし、それにしても海外で激しい反対運動に遭遇しているACTAが、日本では大きな抵抗もなく通ってしまうのはなぜだろうか。

 福井氏は現行の日本の著作権法は既にACTAの要求を満たしているととの見方を示す。確かに、ACTAの要求の中で特にEU議会で問題になった著作権侵害に対する刑事罰の導入についても、日本は今国会の著作権法改正で違法ダウンロードに刑事罰の導入を実現している。ACTAが審議された7月31日の参院外交防衛委員会でも、玄葉外相はACTAを批准しても日本は新たな法律を制定する必要がないことを明言している。既に日本にはACTAが要求している以上に厳しい著作権法制が存在するため、「牙を抜かれた」ACTAそのものは日本にとってはもはやそれほど脅威ではないと福井氏は言うのだ。

 しかし、一難去ってまた一難。仮に今回のACTAそのものは日本にとってそれほどの脅威にはならないとしても、福井氏はACTAで削除された条文がそのままTPP(Trans-Pacific Partnership=環太平洋戦略的経済連携協定)に含まれる可能性が高いと警鐘を鳴らす。TPPこそが著作権の分野で「牙のある」国際条約になる可能性が高いというのだ。ACTAの仇をTPPで果たすと言わんばかりだが、実際にネット上ではTPPは「ACTAプラス」とも呼ばれているという。

 日本におけるこれまでのTPPの議論は農業や関税などに集中しているが、福井氏はアメリカの真の狙いは、今や自動車や農業よりも巨大な輸出産業となったコンテンツの分野でアメリカの基準を世界の基準とすることにあるとの見方を示す。日本は特許などの分野では輸出が多いが、著作権の分野では年間5600億円も貿易赤字を抱える世界最大のコンテンツ輸入大国であり貿易赤字国なのだ。

 既にアメリカはTPPの著作権分野で、著作権侵害の非親告罪化や法定賠償金の導入などを主張していることが明らかになっていると福井氏は言う。しかもTPPは著作権以外にも農業から工業、医療までありとあらゆる分野を網羅した包括的協定であるため、著作権の分野だけ抜けるということができない。もしTPPの交渉過程で著作権分野のアメリカの主張が採用されれば、既に十分強化されている日本の著作権法は、更に強化されることになる。つまりネットが今よりも制約の多い、あるいは警察によって取り締まりを受けやすい場となり、コンテンツの利用にもより大きな制約が課されることになる可能性が高いということだ。

 ACTA、そしてTPPと容赦なく立て続けに著作権保護の強化を狙うアメリカと、なぜか当たり前のようにそのアメリカの片棒を担ぐ日本。そして市民が起ち上がり、ネット規制にノーを突きつけたEU。その3つ巴の中で、着実に強化されていく日本のネット規制。著作権の保護とネットの自由は両立するものなのか。今後世界はどちらの方向に舵を切るのか。著作権法の第一人者福井氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。(今週はニュース・コメンタリーはお休みします。)

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