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2011年10月22日公開

「分かち合い」のための税制改革のすすめ

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第549回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

地方財政審議会会長・東京大学名誉教授
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1946年埼玉県生まれ。69年東京大学経済学部卒業。78年同大学大学院経済学研究科修士号取得。81年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。大阪市立大学助教授、東京大学教授などを経て、2008年地方財政審議会会長。09年より東京大学名誉教授。著書に『「分かち合い」の経済学』、『システム改革の政治経済学』、共編著に『脱「格差社会」への戦略』など。

著書

概要

 増税論議が喧しい。東日本大震災以前から、膨張の一途を続ける財政赤字にどう対処するかは主要な政治課題だったが、この震災によって復興のための財源が必要になったため、財政・税制改革がより急務な課題として浮上してきた。
 日本の財政状況は、「ワニの口」に例えられるように1990年代以降、歳出と税収の開きが年々広がっている。最近では毎年の予算を見ると、90兆円超の歳出に対して税収が40兆円前後にとどまり、赤字分を公債で埋めている。毎年の予算の半分以上を借金で賄っていることになる。
 そうした中、特に野田政権になって以降は、増税が現実味を帯びつつある。しかし、昨今の増税論議は単に「足りない部分を穴埋めする」ための増税になっている感が否めない。これでは負担を強いられる国民が納得しないのも当然だろう。
 そもそも財政が今日のような極端な歳入不足にに陥った原因は、バブル崩壊以降の相次ぐ減税に直接の原因があったと東京大学名誉教授で財政学の権威である神野直彦氏は指摘する。バブルが崩壊した1990年代以降、政府は景気回復と国際競争力の向上という目的のため所得税と法人税を減税し続け、その一方で、やはり景気対策の名のもとに、公共事業支出を増やした。その結果、税収は急速に落ちていった。日本にとって「失われた10年」というのは「減税の10年」でもあったと神野氏は言う。減税が所得税、法人税、資産税に集中していたため、減税の恩恵を受けたのが富裕層に偏り、それが経済格差が広がる原因にもなった。2000年代に入ってからは公共事業費は削減されたが、その分、高齢化にともなう社会保障費が膨らみ、ワニの口は広がる一方だ。
 日本では所得税・法人税の増税への反発が強いようだが、実は現在の日本の所得税は主な他の先進国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)と比べると、かなり低い。他国の租税負担率が10%前後(スウェーデンに至っては15%近く)であるのに対し、日本は5%程度に過ぎない。法人税についても、日本は税率が高いと言われ続けてきたが、90年代以降、負担率は年々下がっており、現在は国際水準並み(3%程度)だ。しかも、こうした減税を行ってきたにもかかわらず、景気は依然として回復していない。減税だけでは景気が回復しないことを、われわれは早く認識すべきだと神野氏は言う。
 このように、相対的に所得税が低いことが、日本の税制を富裕層に有利ないびつなものにしているという事実があるにもかかわらず、昨今の増税論議は消費税増税ばかりに論議が集中しているのはなぜか。消費税は所得逆進性があるため、現在の歪んだ所得税制をそのままにして消費税率を上げれば、その歪みは更にひどいものになってしまう。税の再配分機能が更に弱まり、格差がより広がることが避けられないということだ。
 税金は誰でもいやなものだ。その税金を払ってもらうためには、どのような社会を作っていくのかというビジョンや方向性が明示され、それに合意、あるいは合意しなくても、納得していなければならない。しかし、日本はどのような社会を指向すべきかについて国民的な合意が形成されていないため、税制のあるべき姿をめぐっても、コンセンサスを得ることが難しいのだ。
 スウェーデンは所得税も消費税も他国に比べて租税負担率は高いが、高負担・高福祉による「分かち合い」の必要性について国民の同意が得られている。反対に、小さい政府を指向するアメリカは、連邦レベルの消費税もない上、租税負担率も低いが、その分、「自己責任」の原則が徹底されている。
 ひるがえって日本は、どんな社会を目指すのか。アメリカのような「小さな政府+自己責任」路線か、スウェーデンのような「大きな政府+分かち合い」路線か。
 誰もが公平感を共有できる税制を築くためには、依って立つ哲学や思想が必要だ。神野氏は、スウェーデン語の「Omsorg(オムソーリ)」と「Lagom(ラーゴム)」という二つの概念を日本が税制を考える上でのヒントとして提案する。これが日本が今、失ってしまった共同体の相互扶助や社会の絆を再構築する上で重要なカギを握ると神野氏は言うのだ。
 「分かち合いの経済」を提唱する神野氏と、日本が目指すべき社会改革とそれを支える税制のあるべき形を議論した。

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