2008年05月31日公開

[5金スペシャル]なぜ日本人は死刑が好きなのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第374回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(期限はありません)

概要

 3ヶ月ぶりとなる無料放送の5金スペシャルは、現在公開中の死刑をテーマにした3本の映画を通じて、死刑と日本の現状を、神保、宮台のマル激クラシックスタイルで語り倒してみた。
 世界では多くの国が死刑を廃止する傾向にあり、今やOECD加盟国(先進国)で国として死刑を実施している国は日本だけになっている。(OECD加盟国のうち、制度として死刑が残る国は日本の他、米国と韓国があるが、米国は50州のうち36の州で死刑を実施しているものの、国としての死刑制度は存在しない。また制度としての死刑が残る韓国も、1998年以降その執行を停止しており、実質的な死刑廃止国に数えられている。EUは死刑廃止が加盟条件となっている。)
 しかし、日本だけは世界の趨勢に反して、死刑制度をむしろ強化する方向にある。昨年、日本では23人の死刑が確定した。確定死刑数が20件を越えるのは1961年以来の高い水準だ。また、執行された死刑数9件も、32年ぶりに高い水準だ。数年前から日本では死刑判決の数も執行数もともに急増しているが、それでも最近の世論調査では、8割が死刑制度を支持していることが明らかになっている。
 この日本の状況をどう見るか。発展途上国には死刑制度が残る国も多いことから、単に日本が先進国として遅れているということなのか。それとも宗教的、文化的に何か日本の特殊性があるのか。
 最近、死刑をテーマとする3つの映画が相次いで公開されている。
 死刑を執行する刑務官の葛藤がテーマの『休暇』(門井肇監督)、死刑囚とその死刑囚に自分を重ね合わせる女性の間の不思議な恋愛感情を描いた『接吻』(万田邦敏監督)と『ブレス』(キム・ギドク監督)だ。
 これらの映画はいずれも、死刑という制度の持つ特殊性や現実、矛盾などをフックに、その周辺で生きる人間の複雑な感情を描いたものだが、これまで日本では死刑という存在が一般社会からは隔離された言わば不可視な存在として扱われてきたことを考えると、ここに来て死刑が映画のテーマに取り上げられたことの意味は大きい。
 なぜならば、日本で死刑が広範に支持される背景に、そもそも死刑がどういうものであるかを、ほとんどの国民が知らないという事実があると思われるからだ。日本が絞首刑を実施していることさえ知らない人も多いし、絞首刑がどういうものなのか、その実体もほとんど語られることはない。言うまでもないが、死刑は主権者である私たち国民に代わって、国が代行している行政行為なのだ。
 また、現行の死刑制度のもとでは、本来は判決から半年以内に刑が執行されなければならないことが法律で定められている。しかし、実態は、確定死刑囚は平均で8年間、拘置所で刑の執行を待たされる。上記の3つの映画も、その、「いつ訪れるかもしれない、死を待つだけの長い待機期間」に生じるある種の特殊な精神状態をモチーフにしている。言うまでもないが、究極の刑罰である死刑判決を受けた受刑者には、罰としての刑期を務める義務は全く無い。
 死刑の実態が臭い物に蓋をするかのように覆い隠される一方で、犯罪報道における被害者や遺族の感情は、逆にメディアによって大きく取り上げられるようになっている。犯罪被害者の権利や感情的な救済も、長らく日本社会が見て見ぬふりをしてきた分野であることを考え合わせると、この問題に多くの人の目が向くようになったこと自体には大きな意味がありそうだが、どうもその情報の流れはバランスを欠いている感が否めない。
 そもそも死刑を始めとする国の刑事制度や司法制度は、単に当事者や関係者の感情的回復のみを目的とするものではない。死刑の実態に目を向けることなく、また死刑本来の意味やその目的を考察することなく、メディアが垂れ流す情緒的な情報に強く反応することで形成される、重罰化や死刑の強化を望む世論と、その世論に媚びる形で、これまでの判例や判決基準を無視して、ポピュリズムに与する司法行政の現状は、冷静に検証してみると、かなり危うい状態にあると言えそうだ。
 今週は死刑をテーマに据えた3本の映画を入り口に、死刑から見える日本の今を考えた。
(ビデオニュース・ドットコムでは金曜日が5回ある月はその月の5回目の「マル激トーク・オン・ディマンド」を5金スペシャルとして無料で公開しています。次回の5金は8月29日になります。)

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