原理原則なき「デジタル改革関連法」では個人情報は護れない
NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長
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1972年東京都生まれ。96年横浜市立大卒。同年「情報公開法を求める市民運動」事務局スタッフ。99年NPO法人情報公開クリアリングハウスを設立、室長に就任。理事を経て2011年より現職。共著に『社会の「見える化」をどう実現するか―福島第一原発事故を教訓に』、『情報公開と憲法 知る権利はどう使う』など。
日米地位協定の運用方法を協議する秘密会議「日米合同委員会」の議事内容の情報公開請求をめぐる争いが、予想外の展開を見せ、関係者を驚かせている。
日米合同委員会に関連した情報の公開を求め、国と争ってきたNPO「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、2018年3月2日、司法記者クラブで記者会見を行い、国が日米合同委員会の議事録を公開できない根拠としてきた、米政府側から議事録を非公開とするよう要請があったとする主張を撤回したことを明らかにした。
三木氏によると、撤回の理由として国は、議事録の非公開を求める米側からのメールの提出を裁判所から命じられる可能性があり、それを回避するためにはその主張自体を取り下げる必要があると判断したためと説明しているという。
日本の国内法の適用が免除されている在日米軍の軍人やその家族、軍属の法的地位は、日米地位協定によって規定されている。しかし、実際の運用に際しては、彼らの超法規的な地位と、日本の法律に拘束される日本国民との間に様々な矛盾や利害衝突が生じることが多い。そのため、地位協定の具体的な運用方法を日米の代表者間で協議する目的で、1960年の地位協定の発効と同時に設けられた場が、日米合同委員会だった。
日米合同委員会は、日本側は外務省北米局長が、米側は在日米軍副司令官が代表を務め、その下に在日米軍と日本政府のエリート幹部らが36の分科会や委員会に分かれて協議の場が設けられている。月2回のペースで外務省本庁と都内の米軍施設「ホテルニュー山王」で交互に開催され、その内容は非公開とされ秘密のベールに包まれている。しかし、政府が国民に説明したものとは異なる「密約」が多く含まれていることが、米側で情報公開請求を行った研究者らによって明らかにされており、問題となっている。
情報公開クリアリングハウスは2015年4月、国に対し、日米合同委員会の議事録が非公開とされる根拠となっている日米間の合意文書の開示を求め、情報公開請求を行った。それを非公開としていることの根拠が公開されなければ、そもそもそのような合意が存在すること自体が確認できないからだ。
少しややこしい言い回しになるが、「非公開とされている根拠を公開せよ」と求めたわけだ。日米合同委員会では日米間の安全保障に関わるデリケートな問題も議論されていると考えられるため、議事録全ての公開は無理だとしても、安全保障と直接関係がなく、日本国民の生活への影響が大きな分野での合意までが完全に非公開とされていることに違和感を覚えるのは自然なことだろう。
この請求に対し国は、一旦は全面非開示とする決定を下した。非公開としている根拠も非公開としたわけだ。
しかし、後に、今回公開請求されている文書が、那覇地裁における別の裁判で、国側から提出されていることが判明した。その裁判で国は、沖縄県が県民に説明をするために開示しようとしていた日米合同委員会関連の文書を公開してはならない理由として、今回公開請求されている文書そのものを証拠提出していた。
これを知った外務省は泣く泣く、一度は全面不開示とした文書の開示を決定したが、情報公開クリアリングハウスは、本来開示されるべき文書を非開示とした外務省の決定は不当だったとして、2016年11月、国を相手取って、国家賠償請求に踏み切った。理由は、実際は公開されていた文書を非公開としたことが、国家賠償法上の「注意義務違反」に該当するというものだった。
「これを放置すれば、実際には公開されるべき文書を『非公開』としても、言ったもん勝ちになってしまう。今回はたまたま沖縄の裁判でその文書が提出されていたことがわかったおかげで、最終的に公開されることになったが、もしもわれわれが沖縄の裁判のことを知らなければ、最後まで非公開で終わっていた可能性もあった」と、三木氏は提訴の理由を説明する。
この提訴に対して国は、文書を非公開としたことが注意義務違反には当たらない理由として、米側からもメールや電話で文書を公開しないよう要請されていたことをあげた。米側から開示するなと言われたから非開示としたのであって、沖縄でその情報が既に開示されていることを知らなかったからではないというのが、国側の主張だった。ところが、原告側が、「ならばそのメールを提出せよ」と求めたところ、国は2018年2月28日に唐突にこれまでの主張を撤回したのだった。
これは国が注意義務違反がなかったことの根拠としてあげていた、「米側からメールや電話で要請された」という理由そのものを撤回するものであり、裁判上は明らかに国にとって不利になる決定だった。しかし、仮に裁判に負けても、国はメールの提出を裁判所から命令される事態だけはどうしても避けたかったようだ。実際、国は主張を撤回する理由として、裁判所と米側の板挟み状態になることだけは回避しなければならなかったからだと説明しているのだ。
国はなぜ裁判に負ける危険を冒してまでメールの提出を拒むのか。そもそも会議の実質的な内容とは関係のない、形式的な文書さえ頑なに公開を拒む国の姿勢の背景には何があるのか。日本では「アメリカから言われたこと」の方が、裁判所からの命令よりも優先するのか。情報公開クリアリングハウスはなぜ、国を相手取り情報公開請求や国家賠償請求を行うのか、などについて、三木氏とジャーナリストの神保哲生が議論した。