2017年06月03日公開

国連報告書の妥当性と政府の反応の異常性

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概要

 国連の「表現の自由の促進」に関する特別報告者による報告書の草案が公表された。報告書には表現の自由を守るための数々の提言が含まれているが、政府はこれに真向から反発している。

 この報告書は国連人権委員会の委託を受けた「表現の自由の促進」に関する特別報告者でカリフォルニア大法科大学院教授のデービッド・ケイ氏が、昨年訪日した際に行った調査結果をまとめたもの。現時点では草案(draft)だが、6月12日にスイスのジュネーブで開かれる人権理事会の会合で議論された上で、最終報告書が決議される運びとなっている。

 報告書は日本ではメディアの独立性や表現の自由が脅かされているとして、放送法や秘密保護法の改正などを提言しているほか、ヘイトスピーチを禁ずる差別禁止法の制定や、歴史教育から政府の干渉の排除を提案するなど、日本の法律や制度にまで踏み込んだ内容になっている。

 一方で、メディアに対しても、記者クラブを開放しジャーナリストの業界横断的な連帯を図った上で、政府の圧力と対峙する必要性を訴えている。

 提言の内容はこれまで日本国内でも繰り返し指摘されてきたものが多く、必ずしも目新しいものがあるわけではない。しかし、今回それが国連人権理事会から委任された特別報告者から報告された点は重要な意味を持つ。国内だけの議論ではとかく陣営対立のネタとして処理されてしまう傾向があるが、今回の国連報告者による指摘によって、政府の放送内容への介入の余地を残している放送法や、報道・公益目的の秘密開示も罰することが可能な秘密保護法の現状に人権上の懸念があることが、よりユニバーサルなレベルで裏付けられた形となった。

 しかし、それにしてもこの報告書に対する安倍政権の過剰な拒否反応ぶりは少し心配だ。

 日本政府は報告書の内容に対して、「事実の誤認や不確かな情報に基づいて勧告している」などと猛反発している。確かに、報告書は現状では草案に過ぎない。今のうちに反論しておくことで、最終報告書の内容をトーンダウンさせたいとの思惑があることは理解できなくはない。

 しかし、報告書の指摘の中には、反論の余地のないものや、これまでも繰り返し国連人権理事会や国際人権NGOなどから問題視されてきたものも多い。また、政府の釈明を念頭に置いた上で、それでも残る懸念点を指摘しているものも多い。せめて、「報告書の内容を真摯に受け止めた上で、改善すべき点は改善し、反論すべき点は反論する」と言えなかったのだろうか。それとも安倍政権はこの報告書の中身に指摘されていることが、まったく的外れで事実に反すると本気で思っているのか。

 一連の森友学園や加計学園をめぐる論争などを見ても、安倍政権が正当な批判や懸念をも真摯に受け止める余裕がなくなっているように見える。ロシアゲートを抱えたトランプ政権にも似たような傾向があるが、疑惑があるのなら再調査をすればいいだけのはず。それを、再調査を頑なに拒み、むきになって反論したり、感情的な個人攻撃を行ったりするために、かえって痛くない腹を探られる結果を招いてはいる。それとも、蓋を開けると実際に何か大きな不都合でもあるのだろうか。国連報告者の報告書の内容と、それに対する安倍政権の反応について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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