天皇・皇族の人権のあり方を問いつつ最高裁判決を検証してみた
東京都立大学法学部教授
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参院選は与党の勝利に終わった。選挙前より6議席増やした自民党は27年ぶりの参院単独過半数を確保し、おおさか維新などを含む改憲勢力としても、改憲発議に必要な参院の3分の2を超えるなど、自民党の強さが際立った選挙だった。
一方の野党陣営は共産党が比例区で検討し議席を伸ばした他は全体として低調で、特に最大野党の民進党が14議席も減らしたため、与野党の勢力差は更に拡がる結果となった。
安倍首相は選挙後の会見で、選挙戦の勝利を宣言するとともに、アベノミクスの一層の推進と憲法改正に向けた手続きを進めていく意志などを明確に打ち出した。
一方、大きく議席を減らした民進党の岡田代表は、敗因について、選挙前に与党が野党との論戦を避けたために、争点を明確にすることができなかったと指摘した。
「まともに戦って負けたのならしょうがないが、逃げ回られたので負けた気がしない」
岡田代表はこのように述べ、安倍政権の争点隠しを批判した。
確かに争点が見えない選挙だった。当初、安倍政権は消費増税の再延期の信を問う選挙と位置付けていたが、全政党が消費増税の延期を主張したために、最大の争点となるはずの消費税が完全に争点から消えてしまった。一方、野党が争点に据えようとした安倍政権の憲法改正に向けた姿勢については、そもそも自民党が憲法改正を争点に据えていない上、自公の連立与党だけでは憲法改正の発議すらできない状態にあるため、現実的な争点とは受け止められなかった。
また、安倍政権が選挙前の党首討論を避けたり、メディアに細かい注文を付けるなどして、自分たちにとって不都合な争点が前面に出てくることを押さえ込んだ面があったことも事実だろう。
しかし、やはり争点が見えなかった最大の原因は野党側にあったと言わなければならない。
特に民進党は成長重視のアベノミクスに対して、再分配に力を注ぐ経済政策を打ち出していたが、消費増税の延期に賛成している民進党の政策では、そもそも新たな財源などどこにもない。そのため民進党が主張する再分配を実現するためには、どこから取って、どこに分配するのかを明示する必要があったが、民進党内にはいろいろな意見があり、そこまで踏み込むことができなかった。
同じく憲法改正についても、民進党は安倍政権の下での改正には反対であるとか、憲法9条の改正には反対などの論陣を張って、何とか対立軸を浮き彫りにしようと努力はしていたが、そもそも民進党内に一定数の改憲派が存在することは周知の事実だ。この主張も説得力に欠けていた。
結局のところ、最大野党の民進党が腰を据えて党内で意見集約を行い、自民党とは明確な差別化が図られた、なおかつ説得力があり魅力もある政策パッケージを提案できるようにならない限り、与党の優勢が揺らぐことはないだろう。争点が浮き彫りにならなかったのは、一重に民進党が自民党と明確に差別化された政策提案ができていないからなのだ。
これで4回連続で国政選挙に勝利したことになる安倍首相は、秋の臨時国会で大型補正を含む景気刺激策の策定に早速取り組むという。また、憲法審査会で憲法改正の議論を前進させていくことに意欲を示している。膨らみ続ける財政赤字や、何ともできの悪い自民党憲法改正草案の中身を考えると、現在の路線をそのまま進むことについては不安も多いが、かといって今のままを続けていても、民進党が有権者の信頼を取り戻す道のりは険しそうだ。
なぜ争点なき参院選になってしまったのか。戦犯は誰だったのか。どうすれば争点の可視化が可能になるのかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。