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NPO情報公開クリアリングハウスが今週東京地裁に提起した日米合同委員会議事録の情報公開訴訟は、日本の戦後の政治体制の根幹を問う画期的なものと見るべきだろう。
日米地位協定の下に設置されている日米合同委員会という、在日米軍の幹部と日本政府の中枢を担う官僚たちの間で定期的に行われている会議の議事録の公開請求はこれまでも何度となく行われてきた。しかし、日本政府は日米双方の合意がない限り議事録等を公表しないと決められていると主張し、ことごとくこれを拒んできた。
情報公開クリアリングハウスが12月2日に提訴した情報公開訴訟は、議事録全体の公開を求めるのではなく、これまで政府が非開示の根拠としてきた「日米双方の合意がない限り公表しない」ことの根拠となっている議事録部分のみの公開を求めた点に特徴がある。
具体的には、同NPOが1960年の日米地位協定発効後の日米合同委員会の議事録の一部と、1952年の日米行政協定時代の日米合同委員会の議事録の一部の公開請求を行ったところ、いずれも「日米双方の合意がない限り公表しない」ことが合意されているため、公開が拒否された。そこで、この2つの文書を非開示とした根拠となる、「双方の合意がなければ公開しない」ことを合意した部分の議事録の開示を求めるというもの。
提訴後に記者会見した同NPOの三木由紀子理事長は、「もともと、1960年の合意部分だけなら、中身もはっきりしているし、安全保障上の支障もないので公開されるだろうと考えて請求したら、全部非公開という扱いになった。そもそも非公開の考え方自体が範囲が広いだけではなくて過剰に安全保障上の支障を主張している可能性がある。」と語った。
日米合同委員会とは在日米軍の日本国内における身分を定めた日米地位協定の運用を話し合う在日米軍と日本政府の間の調整機関で、都内の米軍関係者の拠点となっている天現寺のニュー山王ホテルと霞が関の外務省で、これまで1000回を超える会合が持たれてきたとされる。アメリカ側は在日米軍副司令官が、日本側は外務省北米局長が代表を務め、その下に、在日米軍の陸海空軍および海兵隊の参謀長クラスと、外務、財務、防衛、法務、農水各省の将来の次官候補と目されるエリート官僚が名を連ねる。
そこでは在日米軍という世界でも特殊な法的地位を持つ軍人と軍属の法的な身分の調整が話し合われてきたとされる。財務や法務官僚も参加していることから、米軍関係者が事件を起こした場合の刑法の適用の在り方や税金の免除なども話し合われてきたと見られるが、議事録が一切公開されていないため、その実態は謎に包まれてきた。
外務省国際情報局長やイラン大使などを歴任しした元外務官僚で「戦後史の正体」「アメリカに潰された政治家たち」などの著書のある孫崎享氏は、日米合同委員会についてこう解説する。
「多くの人が、日本を守ってもらうから米軍経費は出さなきゃいけないと誤解しているが、発足当時からみると、在日米軍は日本の防衛要請からではなく、どちらかといえばアメリカの世界戦略のために米軍を日本に置いている。(日米合同委員会は)米軍が活動する際に、日本の法律で不都合がないように整合性を調整するのが一番大きな目的だったと思う。」
孫崎氏が指摘するように、アメリカが世界戦略の一貫として日本に軍隊を駐留させていることは、ベトナム戦争や湾岸戦争、イラク戦争に日本から多くの部隊が派遣されていることを見ても明らかだ。しかし、戦後の日本では、アメリカが日本を守ってくれているという一種の神話の上に乗っかり、アメリカの威光を後ろ盾として権力を得ようとする輩が後を絶たない。アメリカの機嫌を損なえば権力の座から転落するなどということが、まことしやかに囁かれるのも、GHQの占領下ならいざ知らず、実際にはアメリカ政府が裏でそのような工作をしているというよりも、日本側にそのような理屈を利用して利権や権力を貪ろうと画策する勢力が政、官、財の中枢に巣くっているところに問題がある。
しかし、今回の提訴では裁判所としても、単に非公開の根拠となる議事録の部分の公開請求を、従来の「安全保障」や「統治行為論」などを理由に却下することは難しいはずだ。砂川事件判決に代表される、いわゆる「統治行為論」で、法律面から戦後レジームを支えてきた裁判所にとっても、この提訴はアリの一穴ならぬハチの一刺しとなる可能性を持っていると言えるだろう。
今回の情報公開訴訟で長らく「一行たりとも公表しない」とされてきた日米合同委員会の議事録が、一部でもその姿を現すかどうかが、日本の戦後レジームの根幹に関わる問題であるかについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。