2015年04月18日公開

実害がなければ権利を侵害しないとする判断は妥当か

イスラム教徒に対する捜査情報の流出事件で高裁判決

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ゲスト

1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学法学部卒業。同大学法学政治学研究科助手、首都大学東京都市教養学部准教授を経て16年より現職。著書に『憲法の急所─権利論を組み立てる』、『自衛隊と憲法─これからの改憲論議のために』など。

著書

概要

 警視庁の公安部が日本に住むイスラム教徒に対して行っていた内偵捜査の捜査情報が、何者かによって持ち出されインターネット上に流出したことで、捜査対象となっていたイスラム教徒17人が、プライバシーの侵害などを理由に東京都と国に損害賠償を求めていた裁判の控訴審で、東京高裁は4月14日、一審判決を維持し、都に計9020万円の支払いを命じる判決を下した。
 しかし、原告が強く求めていた、警察が特定の宗教を理由に個人を捜査対象とすることが、信教の自由を保障する憲法に違反するとした主張は一審同様、退けられた。
 判決は流出した捜査情報がネット上などに公開されたことで、個人のプライバシーが侵害されたことについては、「警視庁の職員によってデータが持ち出されたと考えられ、警視庁には情報管理を怠った過失がある」として、警視庁を管轄する東京都の賠償責任を認定した。
 しかし、宗教を理由とする捜査について判決は、「国際テロ発生の危険がある状況では、やむを得なかった」として、捜査によって信教の自由が侵害されたとの主張は退けた。また、判決は警察の捜査対象となったことでイスラム教徒に実害が発生していないことを、憲法違反とまでは言えないとする理由とした。
 ただし、今後の宗教を理由とした捜査については無制限に許されるわけではないとして、テロ防止の有効性などを検討する必要性を認めた。
 判決後記者会見を行った原告の一人は、「警察は個人情報を収集し、私たちを危険にさらした。判決には満足できない」と語り、上告する方針を示した。
 この判決では公安警察が特定の宗教を理由に個人を捜査対象にしたとしても、その個人に実害が生じるわけではないとの理由から、信教の自由を保障する憲法20条に違反するとまでは言えないとの判断が一審、二審ともに下っている。
 しかし、特定の宗教は警察から監視対象になっていることを知れば、その宗教に入信することを躊躇する人が多く出ることは想像に難くない。実害が出なければ権利を侵したことにはならないとする裁判所の判断は妥当なものだったのか。
 ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、憲法学者の木村草太と議論した。

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